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全国農業協同組合連合会(以下、全農)では、約2,000名の「TAC(タック:Team for Agricultural Coordination(農業コーディネートチーム)」とともに、日本全国の「地域農業の担い手(担い手農家)」のもとへ出向く活動を展開している。
TACとは、担い手農家の総合窓口として活動するJAの営業担当のことで、「T(とことん)A(会って)C(コミュニケーション)」をキャッチフレーズに、「担い手の意見や要望に誠実に対応する」「担い手の経営に役立つ各種情報を提供する」「担い手の意見をJAグループの業務改善につなげる」ことが任務である。
このTACが日々の活動情報を蓄積・共有化するためのツールとして採用されているのが、eセールスマネージャーだ。採用の背景や導入効果、今後の展開について、営農総合対策部(現 営農販売企画部) 部長、小池一平氏(2008.12に転出、後任は大西茂志氏)および同TAC推進グループ調査役、小里司氏に話を聞いた。
全国農業協同組合連合会(全農)について
全農の事業概要をお聞かせください。
小池:全農はJAグループの経済事業を担当している全国連合会です。経済事業は、JAの組合員(農家)が生産した農畜産物を消費者に届ける販売事業と、組合員に必要な資材を供給する購買事業の2つに大別されます。
他の全国連合会として、銀行に相当する信用事業を担う「農林中金」、保険に相当する共済事業を担う「共済連」があります。いずれの連合会も、全国758(2008年12月1日現在)のJA(農業協同組合)によって構成されています。
eセールスマネージャー導入の背景
導入以前のJAグループの事業展開についてお聞かせください。
小池:JAグループは協同組合ですから、JAは組合員(農家)を、連合会はJAを「平等」に支援するという理念があります。例えばJAでは、大規模に農業を経営している組合員にも、自給的な組合員にも、基本的に平等な支援を行ってきました。
しかし、国際競争に打ち勝って、下がり続ける自給率を少しでも改善するには、日本の農業をより競争力の高いものにする必要があります。そこで数年前より、組合員の中から選ばれた担い手というプロ農家を支援するためのさまざまな取り組みや施策を強化しています。
どのような課題があったのでしょうか。
小池:現在求められる「営業」とは、「商品を販売する」ことではなく「顧客を知る」ことだと思いますが、こうした活動を行ったことがないJAグループにはきちんとした「営業」という概念がありませんでした。全農の取るべき対策である「個別対応」は、担い手を個別訪問して耳を傾け、関係を構築していくことですので、まさしく「営業」を実践することが課題でした。
その課題に対し、どのような対策が必要だったのでしょうか。
小池:“全ての組合員に対して平等に接する”という理念(組織対応)を継続しながらも、“個々の担い手と個別のパートナーシップを構築する”という、相反する施策(個別対応)にも取り組むための仕組み作りが必要でした。つまり、個々の担い手のもとに出向く体制を作り、担い手の方々のニーズを拝聴する「個別営業活動」を、既存の業務と平行して行うということです。
担い手を支援していくためには、すべての組合員に平等に対応していくというこれまでの概念を変革することが必要でした。たくさんの組合員の中から担い手農家を選び、担い手とJAと全農が一緒になって今後の方向性を相談し、事業をつうじて個別にパートナーシップを強化するというのは、これまでに無かった取り組みです。
課題解決に向けて
営業活動に必要だったものは何でしょうか。
小池:担い手のニーズや課題を知るために出向く体制を構築することと、そこで得た情報や提供した内容を記録・蓄積・共有化していく何らかのツールが必要でした。
eセールスマネージャーを選定したポイントに
小池:最初に期待したのは、顧客台帳と面談記録の管理により「担い手に出向くJA担当者(TAC)」の業務を効率化できるSFA(Sales Force Automation)/CRMのようなものです。ツールの導入にあたり、いくつかの製品の長所や短所、コストなど、さまざまな機能やサービスを比較したところ、その中で最も優れていたのがeセールスマネージャーでした。主な着眼ポイントは以下のとおりです。
- 顧客情報を活動の中で管理・更新できる
- 求められる営業活動を担当が自己管理できる
- プロセスマネジメントの思想が徹底している
- 実績のあるパッケージソフトである
また、私たちが他社に比べ特に高く評価したのは、コンサルティングサービスの内容やユーザーへの定着支援の提案でした。
小里:最初のコンペで、ソフトブレーン以外は「ご要望に沿った新たなシステムを開発します。」「どんな機能が必要ですか?」というプレゼンでしたが、ソフトブレーンは「プロセスマネジメントを可能にするeセールスマネージャーにあわせて最適な営業に改善すべきです」と言い切りました。
総合的に評価した結果、「既に実績のあるパッケージソフトであるeセールスマネージャーを採用することが成功への近道」という意見が大勢を占めました。
小池:ただしJAグループは、組合員、JA、連合会と、非常に手続きを大切にする組織であり、全く新たな取り組みに挑戦するためには、我々だけで勝手にツールや仕組みを決定することはできませんでした。
そこで、代表的な県本部から7~8名のTACに集まってもらい、どのような機能が必要かを検討しました。こうした大きな変革は現場の理解がなければ成功しません。そこで、現場の担当者の意見を重視しながら進めました。
小里:数回の比較検討を行ったのですが、最終的に圧倒的な差でeセールスマネージャーの採用が決定されました。
eセールスマネージャーの導入において
eセールスマネージャーはどのように導入されたのでしょう。
小里:導入に当たっては、ツール検討に関わった代表県下にトライアルJAを選定し、稼動テストを実施してから全国展開しました。
営業プロセスや農家台帳の詳細検討については、ソフトブレーンのコンサルタントと一緒に現場に出向き、TACに同行して担い手農家を訪問するなど、実際の利用者の要望ヒアリングを行いながら進めました。現場に密着したスタイルでのコンサルティング活動は、「(T)とことん(A)会って(C)コミュニケーション」というTACのキャッチフレーズにも合致していたと思います。
eセールスマネージャー導入後の効果と今後の活用法
eセールスマネージャーの利用開始はいつからでしょうか。
小里:eセールスマネージャーの導入プロジェクトは2006年の春よりスタートしました。同年11月にシステムを導入。2007年からは本格的に活用しており、顧客管理なども実現できています。
システムの普及、定着に当たってもソフトブレーンのコンサルタントが全国各県での操作説明会や各種研修会に積極的に参加してくれて、とても感謝しています。
eセールスマネージャーの導入後、どのような効果がありましたでしょうか。
小里:従来JAが得意としてきたのは、組合員への平準的な対応(ローラー作戦など)で、個々に要望・経営規模・作物が異なる担い手農家への対応は困難でした。どうしても個別の対応が必要になります。
例えば、組合員1万人のJAでも、専業的に農産物を生産・販売しているのは500戸程で、その販売額がJA取扱高の過半数を占めているというJAが少なくありません。そうした、少数ながら影響力の大きい生産者をeセールスマネージャーの顧客登録機能を活用し、選定しています。多数の組合員の中から数百名の担い手を選んで顧客名簿を作り、その顧客に対する専任営業担当を配置するというのは、JAグループにとって初めての試みでした。
TACは、自分が担当する概ね50人の担い手を「自分の顧客台帳」にまとめ、アポイントによって訪問計画を立てます。次に計画に基づいて担い手を訪問し、どのような不満・要望があるか、何か困っていることはあるかなど、担い手の話を傾聴し、これをシステムに入力します。情報は蓄積・共有化し、非常に有効なマーケティングデータとして各事業部門の企画提案や事業改善に生かすことが出来ます。また、一連の記録を見直すことが自分の活動の良し悪しを「気付かせる」ようで、TAC個々の活動のレベルアップにもつながっています。
eセールスマネージャーによって実現した顧客情報の管理について、具体的に教えてください。
小里:eセールスマネージャーを導入する以前の全農では、担い手の“声”も、具体性のない雑多なものとして処理することしかできませんでした。しかし、eセールスマネージャーを導入したことで、担い手一人ひとりの声がデータとしてきちんと見える化されるようになり、担い手が抱えている要望や意見を定量的に把握できるようになりました。こうした情報を分析し、顧客情報として管理できるようになったことで、担い手を「ビジネスパートナー」と呼べる環境が整いつつあるのです。
実際、「JAは大嫌い。二度と来るな」と言っていた農家が、今ではビジネスパートナーとして、さまざまな取り組みに参画してもらえるようになったという効果も出てきています。
また、1カ月に1万数千件の面談情報が入力されますので、作物別・地域別のニーズや課題を具体的に把握することが可能になりました。例えば「米の販売」というキーワード検索によって、米の販売に関する要望や課題が瞬時にレポートされ、今後の指針検討に大いに生かすことが出来ます。
Webシステムですから、情報は常にリアルタイムで、全ての利用者が共有できます。TAC全員が利用できるeセールスマネージャーの掲示板では、全国のTACが相互に販売・栽培技術・税務等、様々な情報を交換しています。
今後の計画をお聞かせいただけますか。
小里:現状では、約2,100人のTACがeセールスマネージャーを利用できる状況にあり、2011年春までには3,000人規模のTACのネットワークが実現できる計画です。
小池:将来的には、4,000人にまで拡大したいですね。TACがそれぞれ50名の担い手をサポートすると20万人のネットワークが実現できます。ここから得られる情報により、担い手に提供されるサービス、品質を向上できます。また、この20万人のネットワークで日本農業の課題を洗い出し、農産物の販売に関する新しい取り組みを実践・成功することが最終的なゴールになります。大変な仕事ですが、非常にやりがいのある仕事です。
ソフトブレーンへの信頼や要望・期待
ソフトブレーンのコンサルティングへの評価をお聞かせください。
小池:過去から現在に至るまで、JAグループには「営業」という言葉はありませんでした。営業という言葉は、商人が客に商品を販売する行為であり、全農と農家の関係には似つかわしくないと考えられてきたためです。
そのため、訪問してニーズを聴き、それを自分たちの仕事として組み立てるという文化が無く、どのようなスタイルで営業スキルを蓄積すればよいかという模索と、ツールの導入を同時に試行錯誤してきたというのが実情でした。それにJAは日本全国にありますし、それぞれのITリテラシーもさまざまです。その中で、導入の意義や使い方などを理解してもらうためには、ソフトブレーンの協力は不可欠でした。
例えば、システムを導入する際もソフトブレーンのコンサルタントが現場密着型で丁寧にやっていただけたことはシステム導入後の活動の定着化や活用ノウハウの蓄積の面で非常に重要でした。
特にシステムを導入したけど使われないという状況だけは絶対に避けたかった。いかに利用してもらうかが非常に重要でした。
現場に負荷のかからない運用ルールを一緒に考え、全国各県で操作研修会を実施し、多数のユーザーに利用普及する際の展開方法について、状況に応じたアドバイスをいただけるなど、利用促進や浸透に向かってソフトブレーンの協力があった点も、システムの導入成功の大きな要因だったと思います。
小里:新しいことを進める上で、「このやり方が効果的です」とJA経営層に我々が話してもなかなか理解してもらえない面があります。しかし、「eセールスマネージャーのような実績のあるツールと、ソフトブレーンの営業ノウハウの組み合わせで実現されている、JAに必要なソリューションです」といえば、経営層の理解も得やすくなりました。
ソフトブレーンへの期待についてお聞かせください。
小池:全農を含むJAグループにおける営業やマーケティングに関するスキルは発展段階ですが、それに対し丁寧なサポートを提供していただけるソフトブレーンのコンサルティング能力には高い信頼を寄せています。
今後も全農と共に営業やマーケティングの習熟度を高めていくための取り組みにご協力いただきたいという一言に尽きると思っています。また、テクノロジーが本業ではない我々ですので、時代に合ったIT活用を提案していただけることにも期待しています。