失注分析とは? 次の受注につながる負けからの学び
民間企業では日々、自社の売り上げ状況についての分析と報告が行われています。
しかし、失注した案件についての振り返りは十分にできているでしょうか?
一般的に、勝因よりも敗因にこそ企業の成長要素が含まれると言われています。本記事では失注分析の方法と効果について解説します。
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失注分析とは
自社の商談結果の分析から改善や新施策につなげるアクション
商談は100%獲得できることはありません。一般的に、商談の獲得率は30%から50%程度であると言われます。その理由としては、
- 最低でも1社以上の競合先がある
- 自社で提案できる商材の仕様や価格が合わない
など、受注を妨げるいくつかの障壁があるためです。
しかし、すべての商談を獲得することは不可能ですが、その確率を上げることはできます。その手法が失注分析なのです。
まずは、良い失注分析と悪い失注分析の特徴を列挙してみます。
良い失注分析の要素
- 定量的:データ化のために報告記述ルールを社内で統一している
例:敗因報告は「競合」「仕様」「コスト」と単語で記す
- 継続性:分析を継続してデータを蓄積している
- 多様性:複数の視点や切り口で分析できるデータである
例:商品別失注分析、営業担当別失注傾向、失注した競合企業分析
- 社内意思統一:失注分析専門チームから大局的な結果が経営層に報告されている
各要素はそれぞれ重要なポイントですが、なにより、失注分析が重要な作業であることを経営幹部が周知することが大切です。
失注分析には、経営自体に影響を与える情報が詰まっています。その認識を営業現場のマネージャーやスタッフに植えつけること、その意味合いを営業スタッフによく伝えて理解させることが、分析改善活動の成功に直結すると言われています。
組織としてのチームワークとリーダーの手腕が問われる重要課題なので、適任者をリーダーとして任命する必要があります。
悪い失注分析の例
- 定性的:文章的なレポートとして記録されている=データとして定量的に変換することが難しい
- 場当たり的:長続きせず、指示をされた期間の分析しか行われていない=データとしての信頼性を確保できず、指標にならない
- 無責任:分析と結果の発信に責任を持つ人が任命されていない=分析を完全にやりきるには、企業が公式に業務としてコミットさせて取り組みレベルを高める必要がある
「継続は力なり」はなにごにも言えることですが、傾向分析のために、最低でも半年から1年のデータは必要でしょう。断面的に切り取った分析では精度も上がりませんし、誤った戦略判断をしてしまう恐れがあります。
次の章ではより具体的に分析方法を解説します。
失注分析の具体的方法①
大要因を把握する
失注は外的要因、内的要因、競合要因のいずれであるか
失注の要因は、おおむね以下の3つに分類できます。
まずは、経済情勢や顧客側の事情などの外的要因。
ふたつめは内的要因で、これは自社の提案内容が受け入れられなかったことによる敗北です。
そして最後が、競合要因。顧客に提案している競合企業に競り負ける敗北です。
原因としては、たとえば以下のようなものが考えられます。
まずはどの大要因が最大の敗因だったのかを知り、その原因究明と対策を講じるため詳細の分析に進むことが求められます。
一定の期間の失注件数を確保して傾向を見る
3か月〜1年間の失注分析データの収集が望ましい
データは多ければ多いほど傾向が現れやすくなります。企業活動は1年ごとで大きな区切りになりますが、一般的には単月、四半期、半期、1年間で区切って、それぞれの期間単位で連続した推移を見ていくことが望ましいと言われています。
1期だけで終わらせず継続することで効果を発揮
新商材のリリースから間もない場合は、取り急ぎ毎月のデータを蓄積していきましょう。しかし、リリース当初に取得できる失注データは、商品ライフサイクルでいう成熟期とは違う傾向を示すことがままあります。そのため、当初のデータ結果を鵜呑みにせず数か月後に再検証することをお勧めします。
失注分析の具体的方法②
大要因の詳細を把握する
次に、失注の大要因の詳細を把握していきましょう。とくに重要なのは、内的要因と競合要因をしっかりと把握することです。
内的要因の分析で自社の弱点が浮き彫りに
各大要因の中で基礎となり、最も重要なのが内的要因。「商材が備えている実力」がありのままに見えてきます。
この実力が無ければ、競合企業とのマッチレースになった時に勝利できる可能性は極めて低くなります。ゆえに、リリース前の段階でマーケティングを入念に行い、新商品として発売する商材の地力をつけておく必要があるのです。
リリース後の競合対策は営業部門で行うことができますが、その対策にはさまざまな理由から、限界があります。やはり発売前の調査や、仮説による市場を想定した発売準備が重要となってくるでしょう。
競合要因により他社の強みと自社の弱みが見えてくる
競合要因に関しては、製品発売前のマーケティング活動からある程度、想定やリサーチ結果が出ていることでしょう。また営業部門が直接、ユーザーの声を聞いたり、競合とコンペを行うことで、生きた競合情報を得ることができます。
しかし、企業によっては直接販売を行わず、ユーザーの声が届きにくい組織もあります。
たとえば、代理店による販売制度を取っていて、代理店のコントロールが難しく、現場から正しい競合の情報が思うように入って来ない、またはWEB販売中心に行うため、価格情報は分かるもののどのような活動をしているのかが分からない、などの問題が想定されます。
競合要因は、内的要因の課題に対して優先課題を選ぶための有益なヒントになります。リサーチ会社に依頼したり、自社で調査人員を確保するなど何らかの方策を取って、情報を確保することが重要になってくるでしょう。
これらの分析で浮かび上がった改善課題について
- 重要度合
- 改善の実現しやすさ
- 実現プロジェクトの立ち上げを行う
の分析を行い、重要かつスピード感を出せる対策を順次立ち上げて改善を実現していくことが望まれます。
失注分析の具体的な方法③
さらなる詳細分析で現場レベルに課題を落とし込む
さらに、さまざまな角度から失注分析を行うことで、見えていなかった課題が浮き彫りになってきます。
商材別失注分析
自社の商材ラインナップをそれぞれの商材別に分析すると、失注原因は異なることがよくあります。
理由としては、
- 商材ライフサイクルの段階が異なる
- 商材自体の競争力が異なる
などが考えられます。
したがって、商材毎にどのような失注傾向があるのかを分析することで、自社の商材全体としての傾向、各商材毎にどのような特徴があるのかを把握する必要があります。
売れているものと売れ行きが芳しくないもの、その違いが何なのかを考察することができるでしょう。
商談がどのタイミング(商談の段階レベル)で失注したか
こちらの分析によって、失注の直接的なきっかけが何だったのかを推測できます。たとえば、以下のような状況が想定できます。
- 商材の提案直後に断られた ⇒ 提案内容の質が低い、営業員の商談誘導力不足など
- 競合企業がコンペに加わった直後 ⇒ 競合の提案が優れているための敗北
- 見積もり提出直後 ⇒ 価格が目安予算よりも大幅に高かった
- 見積もり提出から少し時間が経ってから ⇒ 競合企業の提示価格が勝っていた
- 当初聞いていたプロジェクト開始時期手前 ⇒ 顧客の組織としての意思決定にそぐわなかった
- 顧客¥の発注直前 ⇒ 予算確保できなくなった、最終意思決定者による却下
自社の提案プロセスの中で失注がどのタイミングだったのかを知ることで、理由を推察することができます。
もちろん顧客から丁寧に断りの報告をもらえる場合もありますが、単価が低い商品や素材などの商材取引などの場合は、断りなく失注になることも通例です。
営業員は常にアンテナを張って、断られたタイミングの確認と原因の究明する意識を持つことが肝要です。
営業担当者別の分析
営業担当者ごとの失注結果の分析によっても、傾向が見えてきます。たとえば、以下のような担当者別の分析を行ってみます。
とくに事前の説明なく集計した、同件数の営業活動を行っている営業員のデータ例です。
Aさんの失注をふくめた商談傾向
- 商談化する率が高い
- 受注率は高くない
- 「価格提示をする」営業員としての1次ゴールにたどり着いている
- 価格が見合わなかった、という失注理由が多い
- 価格について詳細の説明を求めると、分からないことが多い
Bさん
- 商談化率は低いが受注率は高い
- 提案段階で商談が終了する事が多い
- 提案スキルと誘導スキルが得意ではない?
- 敗因は詳細まで聞けている
ここから、それぞれの傾向として以下のようなことが見えてきます。
Aさんは馬力があり、初対面の人とのコミュニケーションが優れている。数をこなして商談を取ってくるし、受注件数も多いが、分析したりじっくり考えることはあまり得意ではない。
Bさんは提案時のコミュニケーション力や、誘導力などでAさんに劣るが、商談として一度発生すると受注率が高く、敗因も深く把握している。
双方、得手不得手がありますが、これによって
- 営業員ごとの営業スタイル
- 営業員ごとの各スキルの習熟度
が見えてきます。
把握した営業員ごとの特性をもとに、適したタイプの顧客を担当させることや、足りないスキルを埋めるために個別のトレーニングプランを与えることなどもできます。
また、後でフィードバック面談を行い、調査の結果を担当者に共有すれば、本人の意識にも植えつけられます。結果として成長が加速し、組織強化に役立つことでしょう。
次の章では、「価格による失注」から見えてくる法則について詳しく説明します。
「価格が原因で失注」の真実を読み解く事が重要
価格が原因となって失注する場合には、以下の2つのパターンがあります。
出来る限りの提案をしても顧客¥の納得が得られなかった
このパターンは、顧客のニーズをよく理解して、自社でできる限りの提案を行った結果の敗北であることが多いもの。いわば、悔いの残らない負けと言うところでしょうか。
敗北と共に、その原因は自社の教訓としてフィードバックされ、次世代の商材開発に活かされます。中長期的に企業の糧となることでしょう。
「コストの壁」に営業が勝てる試合を落とした
このパターンでの敗北は企業にとってもっとも悪いパターンです。具体的な商談の中で、以下のようにいくつかの重要な機会損失が発生してしまいます。
- 商談を通じて顧客の考えるニーズを汲み取ること
- 営業担当者が顧客のニーズに応える引き出しを増やせる
- 競合企業がどのような動きをしているのか、を自然な流れで調査できる
企業にとってはもっとも貴重な情報収集機会の損失、営業員にとっては自身が成長する機会の損失です。この場面で敗北から学ぶ機会を逃すと、最低でももう1回は同じ敗北を無為に繰り返すことになります。
失注分析を行うツールとして
失注分析を行うためには、データを蓄積しやすく、分析への活用が容易なツールを導入しましょう。
営業支援システム(SFA)の選択が重要
失注分析の重要性を説明してきましたが、そのデータ集約や分析を人海戦術で行うのは現実的ではありません。
- データの取り扱いにかかる時間の削減
- データ取り扱いに関する人為的なミスの防止
を目的として、専用ツールを活用した方が投資対効果は着実に現れます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、AIが当然のごとくソフトウェアに用いられ始めている現在、スキルの高い人にしか行えなかった分析計算や売り上げ予測などが、人の手を介さずに容易に行えるようになりつつあります。
また、以下のような点も導入のハードルを下げています。
- モバイルアクセスによる利便性の向上
場所を選ばずにスマホなどからデータへアクセス可能
- システムコストの大幅な削減
自社での専用サーバーの購入や設置を必要としないため、最低限のコストでのシステム導入が可能、システムメンテナンスもクラウドなので不要、といったメリットがある
- 業務工数の削減
集計結果を、任意のビジュアル化されたレポートに自動抽出できるため、報告データの正確性向上、報告業務担当者の業務効率化につながる
SFAはさまざまな企業で販売されており、基本機能面は各社ほぼ同じ機能を用意しています。しかし、レポート抽出機能、AIを活用した分析などの先進的な機能は、企業によって実装レベルが変わってきます。
また、それとともにコストなども異なります。
SFAは一度導入されれば、長く活用するものとなります。
予算面、機能面などの要件を社内でよく話し合ったうえで、最適なシステムを採用しましょう。
失注分析は企業戦略の確固たる根拠となる
ここまで失注分析について、概要と注意点を説明してきました。
- 失注は自社要因だけではなく、顧客要因、競合企業要因の3つが存在すること
- 要因は、より具体的な現場の業務課題から生まれていること
- それらの改善が受注確率を向上させる手段に繋がること
これらの課題をすべて、一気に解決することは困難ですが、企業の存続に直結するサインであるとも言えます。まずは失注分析を始めてみて、自社の課題を可視化することから始めましょう。