LTV(ライフタイムバリュー)とは?意味や計算方法・向上させる施策をわかりやすく解説
近年、多くの企業のマネジメントに取り入れられているのが、顧客一人当たりの価値を数値化する「LTV(顧客生涯価値)」。
ビジネスモデルの変化や顧客獲得コスト上昇の影響から、既存顧客を維持する重要性が高まっています。
本記事では、LTV(ライフタイムバリュー)の言葉の意味と計算方法、向上のための具体的な施策を解説します。
LTVとは?指標の意味を解説
LTV(Life Time Value)は「顧客生涯価値」と呼ばれる指標で、ある顧客が生涯のうちに企業やブランドにどれだけの利益をもたらすかを測る概念です。
主に、日常的に使う商品(日用品、化粧品)や、月額払いなどの一定期間支払いが発生する課金型のサブスクリプションビジネスにおいて、顧客満足度やロイヤリティを図るために用いられます。
企業の経営状況を良化させるためには、自社製品・サービスの利益構造を正しく把握し、かけるコストのバランス調整を図ることが大切です。LTVは、マーケティング・営業活動における意思決定の材料となるため、企業のビジネスを加速させるうえで特に重要な役割を果たしています。
LTVが重要視される理由
近年、LTVが重要視されている理由には以下の3つがあります。
新規顧客獲得の難易度が上がっている
インターネットの普及によって、消費者は製品・サービスの情報を自力で取得できるようになりました。現代における取引では、営業担当者がコンタクトを取る間もなく勝負が決まっていることも少なくありません。
消費者が能動的に情報収集を行える昨今、企業側で消費者の購買をコントロールするのは容易ではなく、新規顧客の獲得難易度は上がり続けています。
一般的に、新規顧客を獲得するコストは「1:5の法則」と呼ばれ、既存顧客との関係性を維持するコストに比べて5倍かかると言われます。業界によってはさらに新規獲得コストが上がっている状況です。
このような影響から、事業の収益性を改善するうえで「既存顧客の維持」が重要視されるようになり、指標としてのLTVが注目を集めています。
顧客ロイヤリティの重要性が増している
新規顧客獲得のコストが増え続ける中、求められるようになったのが顧客ロイヤリティの向上です。
顧客ロイヤリティは「顧客の忠誠度」とも呼ばれ、ロイヤリティが高いほど企業やブランドに対する愛着心が高く、契約の継続や繰り返し販売を行える可能性が高まります。
一度、獲得した顧客から継続的に売上・利益を確保できるよう、顧客の維持・定着化のためのサポートの充実、顧客のファン化のための顧客育成(ナーチャリング)が行われるようになりました。
LTVは、上記のような施策が上手くいっているかを分析する指標として、多くの企業に採用されています。
サブスクリプションサービスが増加している
市場の拡大が続いているサブスクリプションは、従来の「売り切り型」の商材とは異なり、継続的な利用の権利を定額制で提供するサービスです。
このビジネスモデルは、「顧客が解約せずに継続してくれること」で初めて安定した収益が得られます。LTVは、拡大傾向のサブスクリプションビジネスにおける顧客維持の施策や、収益性の確認をするうえで重要な指標となるのです。
3rd Party Cookie規制の動きが強まっている
3rd Party Cookieとは、閲覧サイト以外の第三者によって発行されたCookie(ユーザーの閲覧履歴やログイン情報など)のことです。サイトを超えて利用できることから、ターゲティング広告(個人に最適化された広告を表示する手法)などに使用されています。
近年、プライバシー保護の観点から3rd Party Cookieに対する規制の動きが各国で強まっています。今後は外部からの集客が困難になるため、ますます既存顧客からの収益を拡大させる重要性が高まるのです。
このような影響から、顧客維持・定着化を図る指標としてLTVの必要性が高まっています。
LTVの計算方法と重要指標
ここでは実際に、LTVを計算する方法を確認していきましょう。LTVの計算式は以下のとおりです。
LTV=平均購買単価×購買頻度×継続購買期間×収益率−顧客の獲得・維持コスト
計算式の解釈の仕方は一つではありませんが、たとえば「平均購買単価×収益率」は1注文当たりの利益額、「購買頻度×継続購買期間」は、一定期間内の購入回数を表します。
イメージは以下の図で確認してください。
LTVの計算式は「チャーンレート(解約率)」を用いるものもあります。サブスクリプション型のサービスにおけるLTVを算出する際は、以下の計算式を活用しましょう。
LTV = 平均購入単価 ÷ チャーンレート
さらに以下では、LTVを算出・把握するうえで欠かせない重要指標について、詳細や計算方法を解説します。
チャーンレート
チャーンレートとは、自社のサービスを顧客が解約する割合(解約率)をあらわす指標です。「解約」という言葉が入るものの、契約・解約が発生しないビジネスにおいても「自社の商品・サービスの利用をやめた顧客の割合」を示す際に使用されます。
LTVの計算式でも示したとおり、チャーンレートを改善することはLTVの向上に不可欠となるため、適切な計算・管理を徹底しましょう。
チャーンレートには顧客ベースの「カスタマーチャーンレート」と、収益ベースの「レベニューチャーンレート」の2種類があり、それぞれの計算式は以下のようになります。
カスタマーチャーンレート=当月の解約顧客(ID)数÷前月末時点の契約顧客(ID)数×100
レベニューチャーンレート=当月の解約により失われた収益÷前月の月次収益×100
レベニューチャーンレートでは、提供しているサービスのなかに複数のプランがある場合に「価格帯別の解約率」や「収益の増減」を把握できます。上記の計算式は月次のチャーンレートを算出するものですが、ビジネスモデルによっては四半期・年次などで計算するのが適している場合もあります。
ARPA
ARPA(Average Revenue Per Account)は、1アカウントあたりの平均売上金額をあらわす指標です。
前述したLTVの計算で用いた「平均購買単価」を、アカウント単位で算出する際に使用できます。算出方法は以下のとおりです。
ARPA=売上÷アカウント数
たとえば、毎月の売上が2億円、アカウント数が4万人の場合、ARPAは5,000円となります。
ARPAは、1アカウントで複数のデバイスを利用したり、1アカウントを複数ユーザーが利用したりするケースが増えたことから用いられるようになりました。そのため、1ユーザーあたりの平均売上金額を示すARPU(Average Revenue Per User)との区別が必要です。
分析する自社サービスの実情にあわせ、どちらの指標を選択するのかを見きわめましょう。
CAC
CAC(Customer Acquisition Cost)は、1人の顧客を獲得するのにかかったコストをあらわす指標で、LTVの計算式を解説する際に触れた「顧客の獲得コスト」に該当します。算出方法は以下のとおりです。
CAC=すべての顧客獲得コスト÷新規顧客数
顧客獲得コストには、営業・マーケティング活動全般にかかった費用や広告宣伝費が含まれます。LTVを正確に算出するうえで欠かせない指標となるため、CACは常に把握しておきましょう。
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクスは、1顧客あたりの採算性を示す指標です。主に、SaaSやサブスクリプションビジネスで使用されます。
たとえ顧客数が順調に伸びていても、顧客獲得にかかるコストが多ければビジネス全体の収益性は向上しません。そのため、ユニットエコノミクスを把握して、顧客獲得にかかるコストと得られる利益のバランスを図ることが大切になります。
算出方法は以下のとおりです。
ユニットエコノミクス=LTV÷CAC
ユニットエコノミクスの値が大きいほど、顧客の獲得にかけたコストを早期に回収できることになります。値が3以上であればコストを1年以内に回収できる計算になるため、「健全な事業運営ができている」と判断することが一般的です。
ただし、ユニットエコノミクスの値が大きすぎることも良くありません。「値が大きい=顧客獲得のためにコストを投入すれば、さらに売上が向上する見込みがある」と判断できるため、機会損失が発生しているおそれがあるのです。
これらの内容をふまえて、ユニットエコノミクス適正値は「3~5」とされています。これよりも低い場合は、CACを抑えつつLTVを向上させる対策を早急に行いましょう。
MQL
MQL(Marketing Qualified Lead)とは、マーケティング活動で得られたリード(見込み客)のうち、購買意欲が高いと判断されたリードのことです。見込み客へリードナーチャリング(購買意欲醸成)を行った結果、受注確度の数値(スコア)が一定の基準を満たしたリードをMQLと認定します。
MQLは、中長期的なアプローチを続けることで、長期利用・高単価の契約につながる「優良顧客」になる可能性が高いリードです。そのため、MQLを選別して適切なアプローチを行うことで、確度の低いリードをフォローする手間が省け、営業活動が効率化します。
MQLを創出することはLTVの向上に直結するため、あわせて重要視すべき指標といえます。
LTVを向上させる4つの施策
LTVを最大化するためには、要素を分解して、各要素に対して適切な施策を実施することが重要です。
以下では、LTVを高めるために不可欠なポイントを4つに分類して解説します。
1. 平均購買単価を上げる
第一に、顧客一人当たりの平均購買単価を上げることが重要です。とはいえ、顧客の購入促進をむやみに図るだけでは顧客の離脱リスクを高めてしまいます。
1ランク上の商品への乗り換えを訴求する「アップセル」なのか、関連商品の購入を訴求する「クロスセル」なのかを意識し、顧客の特性やニーズによって現実的な購買単価を見極めることが重要なポイントと言えるでしょう。
アップセル・クロスセルの具体例や施策についての詳細は、以下の記事を参考にしてください。
参考:【保存版】アップセルとは?意味やクロスセルとの違い、成功方法を解説
参考:クロスセルとは何か?メリットや具体的な施策、成功事例を紹介
2. 平均購買頻度を高める
次に不可欠な要素となるのが、平均購買頻度の向上です。購買の頻度を高めるためには、顧客へアプローチするタイミングが重要になります。
たとえば、定期的な購入が必要な商材の場合は、SNSやメールマガジンを通じて「購入から◯ヶ月後にメッセージを配信する」といった施策が有効です。
「ちょうど必要なタイミングだった」と顧客に感じてもらえるタイミングで情報発信をすることで、顧客との良好な関係性を維持しつつ購入機会を創出できます。
そのほか、商材の活用用途を広げるための提案を積極的に行うことも効果的です。顧客にとって「そんな使い方があったのか!」という新しい発見につながる情報を提供することで、購買するきっかけを増やせる可能性があります。
3. 継続期間を延ばす
顧客の購入する継続期間をいかに延ばすかも重要なポイントのひとつです。顧客の離脱を防止するためには、企業や商材へのロイヤリティを高める施策が欠かせません。
具体的には、自社の商材を通じて顧客の成功を実現する「カスタマーサクセス」の導入や、長期利用者限定の特典を用意するなど、「売った後」のフォロー体制を構築することが重要になります。
また、顧客データの分析から「満足度が低い顧客」をいち早く見つけ、的確なコミュニケーションを図ることも解約阻止に効果的です。ITツールの導入や組織体制の見直しを図り、データの活用基盤を整えましょう。
4. 顧客の獲得・維持コストを効率化する
顧客を獲得、または維持するためのコストを効率化することも重要です。言うまでもなく、ただ獲得・維持コストを削減すればいいというわけではありません。
たとえば、顧客情報を適切に管理できるCRM(顧客関係管理)や、営業活動の効率化に有効なSFA(営業支援ツール)を活用することで、業務負荷を軽減しつつ顧客フォローを最適化できます。
顧客情報を適切に管理・活用できる基盤を構築し、低コストかつ高品質なアプローチを実現しましょう。
LTVとCRM/SFAとの関係
CRM(顧客関係管理)は、顧客との良好な関係性を構築するためのマネジメント手法です。
CRMを導入し、顧客一人ひとりの属性や行動特性、ニーズをデータとして管理することができれば、これまで不確実だった施策をより効果的に実施することができます。このCRMという手法は、一般的にLTVとセットで語られることが多いものです。
LTVとCRMが密接に関係する理由は、顧客のニーズや行動特性を正確に把握しない限り、顧客に最適なアプローチをとることは難しいからです。
CRMを正しく運用し、顧客との関係性を構築することで、企業や商品に対する顧客ロイヤリティが高まり、結果的にLTVの向上につながります。
また、BtoBビジネスを展開している場合には、個人単位ではなく企業単位での各種数値の集計や営業コストなどを可視化できるSFA(営業支援)ツールの利用も有効です。
参考:SFAとは?CRM・MAとの違いや導入時のポイントを解説
LTV向上には「データ活用」が不可欠
LTVによるマネジメントの導入は、既存顧客の満足度やロイヤリティを高めるだけでなく、営業コストの抑制や利益率の改善にもつながります。
さらに、サポートツールであるCRM/SFAを導入してデータ活用を促進することで、一層LTV向上が実現しやすくなるでしょう。
ぜひこの記事を参考に、新たな指標としてLTVの導入を検討してみてはいかがでしょうか。