営業常識は非常識に
数百年前は、天動説が常識でした。今ではそれこそが非常識になりました。
時代が進化すると表面現象ではなく、本質が見えてくることが多いのです。
常識だったことが非常識になります。
水は100度で蒸気になります。しかし、これは一部の国の常識です。チベットに行けば90度で沸くことが常識になります。
環境と条件が変われば、常識は変わります。
確かに100度で水が沸くのが常識ですが、海抜が高くなればその常識も変わるのです。
ビジネス環境と社会条件が激しく変わったのに、相変わらずこれまでの常識で行動している人がどれほどいるでしょうか。
営業常識の多くは決して間違っているわけではありません。その時代時代においては通用するものです。
ただし、今の環境下で売り上を伸ばすためには、我々は営業の常識なるものに疑問を呈せざるを得ないのです。
いくつかのよく耳にする「営業常識」を紹介しましょう。
これは全ての営業管理者が認知するものではありませんが、少なくとも一部、あるいはかなりの人々が持っている「常識」です。
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1. インセンティブ論
「営業は泥臭い仕事だ。売れてなんぼの世界。理屈は要らない。売れた奴にインセンティブを与えれば自然に売れる」
高度成長期に押しの強さでトップセールになった人たちに、このようなタイプが多く見られます。
モノのない時代では顧客がモノを買いたいだけではなく、営業マンもモノを欲しがりました。
人気商品を大量に押し込むことでボーナスをたくさんもらえた時代への思い出を、未だに忘れられない人たちです。
インセンティブを与えれば、売れるほど世の中は単純ではありません。
もしこの常識が成り立つのであれば、どこでも売れることになります。
なぜならばインセンティブを与えることは誰でもできるからです。
2. 人間力論
「営業は人柄。人に好かれない人は売れない。モノを売る前に、人間を売れ」
これは正論ですが、営業常識にしてはいけません。
人柄の意味は曖昧で、個人の趣味と価値観に依存します。
数百人、数千人の営業マンにこんなことを強要しても何の意味もありません。
なぜならば、営業マンは誰も自分の人柄が悪いと思っていないからです。
人間力は、責任者やトップセールスが求められる素質です。
人材の流動性の高い現在において、人間性の育成は企業が取り込む課題ではないと信じます。
これはむしろ人材を選ぶときにすべき努力だと思います。
大勢の営業マンの人間力を磨くのでは、効率が悪すぎます。
これを強調すると人間性のよくない営業マンは、売れなくて良いことになります。
磨かれるまで売れなくてよいことになります。
もっと問題になるのは、企業が人間性を磨かれた営業マンしか使えないような弱い会社になることです。
さらに基本的には顧客は企業の製品とサービスを買うわけで、営業マンの人間性を買うわけではありません。
制度的に顧客の反感を買うような行動を制限すれば、企業全体の総合サービス力と好感度が評価されるはずです。
3. センス論
「営業はセンスだ。売れない奴はいくら頑張ってもたかが知れている」
どんな職種にも適合性の問題はあります。
それは面接の時にチェックしておくべきですし、またどんな人にも適合の程度があります。
非常に適合している人もいれば、あまり適合しない人もいます。
しかし、全く不適合する人は営業職にならないはずです。
センスは実に曖昧なもので、人次第です。
他人が描いた絵や選んだファッションはセンスが悪いと思う人は多いはずです。
しかし、当人は自分のセンスの良さを信じて絵を描いたり、ファッションを選んでいるのです。
音楽、絵画、舞踊、料理などの芸術と文化の分野では、センスがすべてです。
センスは、理屈や仕組みの反対側の世界です。
練習を重ねることで熟練度が高くなるかもしれませんが、センスは天性に依存します。
しかし、我々ははたしてどれだけ、営業センスのある人を営業マンとして集めることができるでしょうか。
500人の営業マンのなかに、営業センスのある人が何人がいるでしょうか。
もしセンスを強調するような営業管理を行うと、いわゆるセンスの悪い人たちは、顧客に迷惑をかけることになります。
これはセンスのばらつきはそのまま顧客に押しつけることになります。
組織としての営業力を強化するには、センスを前提にしないことが大事です。
センスのよいトップセールスのノウハウを少しでも客観的に分析し、センスのない人にもそれを実行可能にしてあげることです。
これがいわゆるナレッジマネジメントという概念です。
顧客は、センスのよい営業マンを求めているわけではありません。
センスのよい営業マンが提供してくれるサービスを求めているはずです。
そのサービスの内容を項目別に分析すれば、センスのない人でも真似でもきる部分が多いことに気付きます。
問題は、そのセンスのよい名人の分析をいかに客観的に行うかです。
本人の言葉を聞いてはいけません。なぜならば、本人も知らないからです。
それがセンスというものの由来です。
このほかにも「教育論」や「情熱論」など“非常識な営業常識”はたくさんあります。
どれも必ずしも間違ってはいないのですが、売れない時代の営業プロセス改善には寄与できません。
総じて言うと、これまでの営業の常識とハウツーはトップセールスの個人経験と心構えによるものが多いのです。
このことは、日本の営業はいかに個人的能力と精神的緊張感に頼りすぎているかを証明しています。
「熱いものは熱くないと思えば熱くない」、「物質が有限だが、お前らの精神は無限だ」という前近代的な精神論は根が深いのです。
しかも、この精神論を信じている人が、一部の年配のリーダーたちであることに問題の根源があります。