インサイトとは?意味や顧客ニーズの分析方法・ビジネス活用事例を紹介
高品質で低価格なサービスが溢れ、モノが売れない時代が到来しました。ヒット商品を生み出すためには、インサイト起点の商品開発が欠かせません。今回はインサイトの意味や顧客ニーズの分析方法、ビジネスへの活用事例について解説します。
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インサイトとは|意味を詳しく解説
まず、ビジネスシーンにおけるインサイトの意味について解説します。
インサイトとは潜在的な購買欲求のきっかけ
インサイトとは、商品やサービスの機能や外観、世界観など直感的に欲しいという気持ちを引き起こさせるきっかけのことです。顧客自身が気が付いていないニーズや課題であるため、商品やサービスを提供する側が購買欲求を掻きたてるスイッチであるインサイトを刺激する必要があります。
インサイトを見つけるには、顧客の表面的な要求ではなく、本質的な動機や意図を理解しなくてはいけません。そのために、消費者の行動や言動の背後にある心理的な要因を探る必要があります。
インサイトにもとづいたマーケティング施策を実行すれば、消費者の購買意欲を喚起しやすくなるでしょう。
法人間におけるビジネスインサイトとは
BtoBビジネスにおいても、顧客企業の潜在的なニーズや課題を見抜くことが重要です。そのためには、顧客企業の業界動向や競合状況、経営戦略などを深く理解することが求められます。
また、製品やサービスの機能的価値だけでなく、顧客企業の事業成功に貢献できる価値を提案することも重要です。顧客企業の抱えているビジネスインサイトを掘り返し、「自社の商品やサービスを契約することがどれだけ有益であるか」を企業の担当者に理解してもらう必要があるでしょう。
BtoBビジネスについてより詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。
参考:BtoBとはどんなビジネス?魅力や手法、BtoCとの違いやポイントを解説
インサイトと顧客ニーズの違い
インサイトと顧客ニーズの違いは、顧客がニーズを自覚しているかどうかです。
消費者自身が自覚しており、どのような商品や機能が欲しいのかを説明できるニーズは顕在ニーズです。自覚はできていないものの、対話を繰り返すなかで聞き出せるニーズが潜在ニーズにあたります。インサイトは潜在ニーズ、より深い意識にある欲求です。
つまりインサイトとは、本人も自覚していないものの、深層心理にある欲求や願望のことを指します。インサイトと顕在ニーズや潜在ニーズは、欲求を抱えている意識レベルによって異なります。
インサイトの重要性
ビジネスにおいてインサイトが重要である3つの理由について、詳しく見ていきましょう。
モノが売れない時代のため
現代には、高品質かつ低価格の商品やサービスがあふれているため、販売競争が激しくなっています。加えて、顧客ニーズが多様化しているため、従来どおりの広告やマーケティング施策を打っても成果があがりにくい状況といえます。
それでも、インサイトを意識して商品開発やマーケティング施策を練れば、現状の製品やサービスの改善点が明らかになるでしょう。消費者や顧客企業の潜在的な不満や要望を把握することで、商品やサービスを効果的に改良できます。
インサイトにもとづく改良は、顧客満足度の向上と売上増加につなげられるでしょう。
顧客と信頼関係を構築できるため
顧客のインサイトを捉えることで、消費者や顧客企業により高い満足感を提供できます。インサイトを満たせれば、「本質的なニーズを満たしてくれる会社」という印象を与えられるため、既存顧客との信頼関係の構築につなげられるでしょう。
ユーザーとの関係が密になれば、リピーターや継続的な契約を獲得でき、安定的な売上や利益を期待できます。
ブルーオーシャンを見つけられるため
顧客の抱えているインサイトを発見し、競合他社にない独自の価値を提供できれば、市場での存在感を高められます。インサイトを活かした製品やサービスは、顧客のニーズに合致しやすく選ばれやすいからです。
一方、ユーザーの顧客ニーズを聞き出して開発した商品やサービスは、顕在ニーズに根ざしたものであるため、他企業との競争に巻き込まれやすい傾向があります。その点、本質的なユーザーのニーズであるインサイトを捕らえて商品やサービスを開発できれば、業界の常識や慣習にとらわれない画期的なアプローチを生み出せるでしょう。
インサイトを追求する利点
ここでは、顧客のインサイトを追求することで得られるメリットについて紹介します。
既存の製品やサービスを改良できる可能性がある
顧客のインサイトを理解できれば、現状の製品やサービスの改善点が明らかになります。ユーザーの潜在的な不満や要望を把握し、それに応える形で製品を進化させられるでしょう。
また、ユーザーの使用状況や課題を深く理解することで、利便性や機能性を高められます。インサイトにもとづいて商品やサービスを改良すれば、顧客満足度の向上と売上増加につなげられるでしょう。
ビジネスモデルにイノベーションをもたらす可能性がある
顧客のインサイトを深く理解することは、ビジネスモデルを革新するための重要な要素です。顧客の潜在的な不便さを解決する新しいアプローチが、業界全体に変革を与えるケースは珍しくありません。
また、マーケティングにおいても、顧客インサイトは重要です。顧客の行動パターンやメディア接触の傾向を分析すれば、より効果的な販促戦略を立てられます。
顧客インサイトを活用することで、製品やサービスの改善だけでなく、ビジネスモデル全体を顧客中心に再構築する機会を得られるでしょう。
シェアの拡大につながる
消費者のインサイトを深く理解すれば、競合他社が見落としているニーズを発見できるため、競合が対応していない隙間市場でのシェア獲得が期待できます。
たとえば、ドイツの高級車メーカーのフォルクスワーゲンは、顧客のインサイトを理解してシェア拡大につなげた典型例のひとつです。
たとえば、フォルクスワーゲンがアメリカに進出する際、「Think small(小さいことは理想的)」というコンセプトを打ち出した事例があります。当時のアメリカでは、「大きいことはよいこと」という価値観が広がっていました。
そのような時代にフォルクスワーゲンは「車は小さくてもよい」というインサイトを発見したことで、アメリカへの進出を成功させました。
このようにインサイトを的確にとらえ、ニーズにマッチした商品やサービスを提供することで、市場での差別化が図れます。インサイトにもとづいてマーケティング戦略を練れば、効率的にシェアを拡大できるでしょう。
インサイトを見つけ方
インサイトを見つける方法は、以下の手順で進めていきます。
- データを収集する
- データ分析を行う
- 消費者のインサイトを探る
- 固定概念を覆してアプローチする
ここでは、各手順について解説します。
1.データを収集する
まずは、顧客の商品購入の動機に関するデータを収集していきます。データを蓄積すれば、顧客の商品購入の傾向や嗜好を把握できます。データ量は多いほどインサイト分析が行いやすくなるため、顧客に関するデータを積極的に収集しましょう。
アンケート調査 | 年齢、性別、職業、収入、購買履歴の情報を収集する |
トラッキング | Webサイトやアプリの閲覧や操作履歴の情報を収集する |
ユーザーインタビュー | サービスを利用しているユーザーにヒアリングする |
行動観察 | 対象者と生活を共にして普段の生活や行動を観察する |
MROC | コミュニティの様子を観察する |
顧客データの管理にはCRMがおすすめです。CRMに関して詳しく知りたい方は、下記の記事を読んでみてください。
参考:CRMとは?機能やメリット、導入時の選び方、活用のコツをわかりやすく解説
2.データ分析を行う
次にデータ分析をします。顧客に関するデータを収集したら「なぜ、そのような行動を起こしているのか」「顧客は、どのような動機で商品を購入しているのか」を把握していきます。そして、共感マップを作成して情報を整理しましょう。
See | 顧客がどのようなサービスに接触しているのか |
Say&hear | 顧客からどのような意見が出ているのか |
Think&Feel | 顧客がどのように感じて何を望むのか |
Do | 顧客がどのような行動をするのか |
Pains&Gains | 顧客が抱える問題と解決したいこと |
データ分析について知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
参考:【初級編】データ分析とは? メリットや分析方法、おすすめのツール、活用事例を徹底解説!
3.消費者のインサイトを探る
データ分析の結果から、サービスのユーザーモデルとなるペルソナを設定していきます。ペルソナは「年齢」「性別」「学歴」だけでなく、細かな要素まで設定するようにしましょう。細かな要素まで設定することで、顧客目線での商品開発や宣伝広報が行えるようになります。
ペルソナの設定方法
BtoC | BtoB |
・年齢 ・性別 ・居住地域 ・住居情報 ・最終学歴 ・職業 ・年収 ・家族構成 ・趣味 ・ライフスタイル ・現在の悩み ・理想の姿 | 担当者 ・年齢 ・役職 ・課題 ・要望 ・サービス選定時のポイント 企業 ・企業規模 ・部門 ・課題 ・サービス選定条件 |
4.固定概念を覆してアプローチする
ペルソナはどのような商品を見つけたら感動して購入するだろうかを考えながら、商品開発をしていきます。どれだけ顧客のインサイトに近づけるかが重要です。
今までになかった新商品を開発すれば、大きな話題性を集められるでしょう。そのため、インサイト起点を大事にすると同時に固定概念を覆したものを開発するようにしましょう。
インサイトの創出方法
ここでは、インサイトの創出方法を3つ紹介します。
インタビュー調査
インタビュー調査とは、消費者や顧客に直接話を聞くことで、深層心理や潜在的なニーズを探る方法です。対象者の意識や価値観・背後にある考え方を調査する目的で行われます。
インタビュー調査には、個人面談やグループインタビューなど、さまざまな形式があります。質問内容や聞き方を工夫することで、表面的な回答だけでなく、本音や背景にある思いを引き出せるでしょう。
また、対面で聞き取り調査を行えば、表情や身振り手振りなどの非言語的な情報も収集できます。ただし、サンプル数が限られるため、得られた知見の一般化には注意が必要です。
行動観察調査
行動観察調査とは、消費者や顧客の実際の行動を観察することで、無意識のうちに行っている行動パターンや習慣を発見する方法です。定量的なデータでは捉えきれない消費者の行動原理を把握できるため、インサイトを発見するために有効な調査方法といえます。
店舗での購買行動や自宅での製品の使用状況など、さまざまな場面における顧客の行動を観察し分析できます。ただし、観察されていることを意識してしまうと対象者の行動が変化する恐れがあるため、自然な状態での調査が重要です。
MROC
MROCとは、Marketing Research Online Communityの略で、オンライン上で消費者や顧客のコミュニティを形成し、継続的に対話やタスクを行う調査手法です。
多数の参加者から、長期的かつ詳細なフィードバックを得られます。コミュニティ内での自発的な発言や交流によって、生の声や体験を収集できるでしょう。参加者同士の議論から、新たな気づきやアイデアが生まれることもあります。
MROCの手法は、オンラインならではの利便性と柔軟性がありますが、参加者の属性に偏りが生じる恐れがある点だけ注意が必要です。
企業におけるインサイトの成功事例
顧客のインサイトを発見して固定概念を覆した商品開発、と聞くと難しく感じますが、これまで、どのような商品が誕生しているのでしょうか?
企業におけるインサイトの成功事例を見ておきましょう。
半年間で約1,400万個を売り上げた液体洗剤「トップ ナノックス」
出典元:『ライオン』
ライオン株式会社は、2010年1月に洗濯用コンパクト液体洗剤「トップ ナノックス」を開発しました。商品開発の当初、訴求ポイントは洗浄力でした。しかし、「高い洗浄力で汚れが落ちる」とアピールしても響かなかったのです。
ライオンが2010年に東京、ベルリン、ソウルの3都市で実施したインターネット調査の結果では、日本は毎日洗濯する人の割合が他国の3、4倍であることが判明。そこから、目に見える汚れで洗濯の必要性を判断しているのではなく、においで判断しているという仮説を立てました。
そして、「ニオイまで落とす洗濯用コンパクト液体洗剤」と訴求方法を替えてヒット商品化に成功しました。
参考:定性調査で引き出した主婦の『コンパクト』『におい取り』欲求
消臭芳香剤市場の拡大に貢献した「ファブリーズ」
出典元:『P&G』
P&Gは、布製品の消臭・除菌スプレー「ファブリーズ」を販売しています。ファブリーズは日常生活のイヤなニオイを消すために誕生した商品です。しかし、商品の発売当初は売上が伸びず苦戦していました。
そのため、ファブリーズ利用者の調査を行ったところ、家で喫煙する家庭ではタバコのにおいが常習化して、当人は気になっていないことが判明しました。また、ファブリーズのとあるリピーターにインタビューしたところ、「掃除を終えた後のご褒美のような気分でファブリーズのスプレーを噴射している」ということがわかりました。
ファブリーズ利用者の声を参考に、掃除後のご褒美にフレッシュな香りを付けるための商品に生まれ変わりました。コンセプトを変えた直後、2ヶ月間で売上が倍増する大ヒット商品となりました。
結果、ファブリーズ発売後の約10年間で、消臭芳香剤の市場は2倍以上に拡大しています。
参考:ファブリーズの大失敗とV字回復【コンシューマーインサイトの成功事例(4)】
発売7ヶ月で1,400万食を突破した「カップヌードル リッチ」
出典元:『日清食品ホールディングス』
日清食品ホールディングス株式会社は、販売から45年を超えるロングセラーの商品「カップヌードル」を販売しています。しかし、高カロリーでジャンキーであるため、60歳を超える年代から購入率が低下することを課題としていました。
アクティブシニア向けの商品を調べると、減塩や低カロリーなど健康志向なものが多く販売されていました。ところが、アクティブシニアを調査すると「健康志向ではあるものの、食事にはおいしさを求めたい」という欲求があることに気づいたのです。
そこで、シニア向けとして、健康に配慮しつつも味にこだわった「カップヌードルリッチ」を販売。カップヌードルリッチは発売7ヶ月で1,400万食を突破する人気商品となりました。
参考:消費者を動かす心のスイッチ「インサイト」を掴んで新市場を切り開く
インサイトが学べるおすすめの本
インサイトをより深く学びたい方は本を読みましょう。ここでは、インサイトが学べるおすすめの本をご紹介します。
『「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方』
出典元:『宣伝会議』
インサイトの概要や発見方法、固定概念を壊すアイデア生成など基礎を学べる書籍です。インサイトの発見方法だけでなく、インサイト起点の商品開発方法まで解説されています。
インサイトに関してロジックに解説されていると評判が高いため、体系的に学びたいという方におすすめの書籍です。
書籍名 | 「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方 |
著者 | 大松孝弘、波田浩之 |
出版社 | 宣伝会議 |
ページ数 | 276ページ |
販売価格 | 1,650円(税込) |
『「思わず買ってしまう」心のスイッチを見つけるための インサイト実践トレーニング』
出典元:『ダイヤモンド社』
インサイト発見のトレーニングができる書籍です。本書にはインサイト発見に関する技法が紹介されています。
- 隠された本音がわかる「発見ツール」
- 買いたくなるツボを見つける「仮説ツール」
- 心のホットボタンを押す提案の「発見ツール」
インサイトの実践版として発売された書籍のため、インサイトのトレーニングがしたいという方におすすめの書籍です。
書籍名 | 「思わず買ってしまう」心のスイッチを見つけるための インサイト実践トレーニング |
著者 | 桶谷 功 |
出版社 | 宣伝会議 |
ページ数 | 256ページ |
販売価格 | 1,760円(税込) |
『戦略インサイト 新しい市場を切り拓く最強のマーケティング』
出典元:『ダイヤモンド社』
本書では国内での新規事業の創出だけでなく、中国やインドの海外進出に用いられたマーケティング手法が紹介されています。著者の桶谷氏は株式会社インサイトの代表取締役で、日本ではじめてインサイトの考え方を体系的に紹介しました。
本書にも、インサイト視点で開発してヒット商品化した成功事例が紹介されています。そのため、成功事例を見たい方におすすめの書籍です。
書籍名 | 戦略インサイト——新しい市場を切り拓く最強のマーケティング |
著者 | 桶谷 功 |
出版社 | ダイヤモンド社 |
ページ数 | 264ページ |
販売価格 | 1,760円(税込) |
顧客のインサイトを捉えた商品開発をしよう
高品質で低価格なサービスが溢れ、競合製品との差別化が難しくなってきました。しかし、モノが売れない時代でも、顧客の心を動かすことができればヒット商品は生み出せます。
この記事では、インサイトの発見方法や成功事例を紹介しました。ぜひ、これを機会に顧客の欲求スイッチに働きかける商品開発に取り組んでみてください。
また、インサイト分析ではデータを活用します。社内にデータを蓄積していきたい方はCRM/SFAを導入しましょう。CRM/SFA導入方法については、資料で詳しく説明しているため、ぜひダウンロードしてみてください。