「営業力」強化はこの道しかない!先入観を捨てて営業を“科学”せよ
営業力強化は、今や多くの企業にとって重要課題。
しかし、「営業力」が短期間で安易に身に付けられるものと誤解してはいないでしょうか?
実は営業力は、「科学的」なアプローチや「練習」なくして成り立たないもの。
そこで本コラムでは、今、企業に求められている「営業力」とその強化方法についてご紹介します。
プロローグ
とある企業の営業部門。
売上の落ち込みに悩む、プレイング営業マネージャーA氏。
なんとか解決しなければと「営業力」をキーワードにネット検索したり、書籍を読んだりしましたが、どれもピンとこないものばかり。
例えば…
≪営業力が3日でアップ!秘訣はコミュニケーション力≫
≪商談でのヒアリングが成否を分ける!まずは誠意を持って聞く力を付けよ!≫
≪クロージングのための3つのテクニック≫ …など。
現場経験が長いA氏は首を傾げます。
「間違ったことは言っていないが、話術やテクニックを磨いて売上が伸びたらいいのだけれど、今はそんな時代でもないだろう。新規開拓1つとっても、課題が多いというのに…。」
A氏が言う通り、今や営業部門には課題が山積み。
既存顧客の売上は年々減少し、利益率は減少する一方。その上、新規開拓にかける時間やスキルも不足している状態。
いくら「クロージング」のためのスキルばかり磨いても、商談にこぎつけなければ意味はありません。
――こんな時代に、どうしたら営業力を強化することができるのでしょうか?
1章 「営業力」誤解していませんか?
「営業力」のウソ・ホント
導入で紹介したように、昨今、営業力の強化を課題とする企業は増えています。
そのため、「営業力強化」に関する情報は数多く存在していますが、多くの営業マンの方が実感している通り、「短期間で簡単に営業力を上げる方法がない」というのが事実。
例えば「営業力を上げる!明日から契約が取れるトークテクニック集」…というものがあり、営業マンがこれをすべて暗記したとしても、「商談」がなければ意味はありませんし、継続的な売上につながるかどうかは別の問題でしょう。
商談のテクニックは確かに必要かもしれませんが、落ち着いてまずは自社の営業課題に目を向けることが大事です。
すると、次のような営業課題が見えてくるのではないでしょうか。
- 新規開拓がなかなか進まない
- 行きやすい、フォローしやすい顧客企業ばかり行く
- 営業マネージャー自らが売りに行っている
- 売れる人と売れない人の差が大きい
- 部下育成(教育)がOJTばかりになりがち
- 顧客のいいなりになっている
こうした課題に目を向けると、「営業力が足りない」のは、下図のように「集客」「見込み客フォロー」「販売・見極め」「ファン化」に分けられる、営業プロセス全体に対してということがわかります。
「営業力」とは、営業プロセスのどこを指すのか、営業マン個人なのか、営業組織全体なのか…幅広い範囲を指す、 “マジックワード”的な言葉です。
しかし、それらすべての強化なくして、売上を伸ばすことはできません。
セールス面ばかり見るのではなく、営業プロセス全体を考える視点が、特に営業マネージャーには求められるのです。
本当に営業力を強化したいなら…営業を“科学”するべし!
では、営業力を強化するためには、どこから手をつけたらよいのでしょうか。
上図のような営業プロセスを見ると、迷ってしまうかもしれません。
では、企業で最も売上を上げているトップ営業マンはどのようにしているのでしょうか?
そこに、ヒントがあるかもしれません。
よく、トップ営業マンは「カン」や「ひらめき」など天才的な力で商談を取ってくるかのように思われています。
同じ営業マンでもどうしてこのような違いがあるのか…というくらい、「センス」に左右されるものと感じてはいないでしょうか?
しかし、「カン」や「ひらめき」、「センス」を人に教えたり、学んだりすることは難しいものです。
例えば、トップ営業マンをマネージャーにしても、自分の「センス」をうまく伝えられずに失敗するケースも多々あります。
その理由として考えられるのが、「自分がなぜ成功しているのか」を意識していないから。
実は“天才”営業マンに多いのが “無意識”に結果を出しているタイプ。
無意識に成功しているのですから、理路整然と教えることは難しいのでしょう。
しかし、このようなトッププレイヤーの行動を分析し成功する「型」を見出して再現可能にすればどうでしょうか?
つまり、トップ営業マンの行動を分析して再現可能な方法で標準化するという、科学的なアプローチです。
言い換えると、 営業を“科学”すること。
それは、営業を誰にでも――もちろん練習は必要ですが――再現できるような状態にするということにほかなりません。
その方法について、次章で詳しく見ていきましょう。
2章 営業を科学することで見えてくる、トップ営業マンの“秘密”
営業力強化の第一歩…業務を小さなプロセスに分解してみよう
唐突ですが、「おいしいウイスキーの水割り」の作り方をご存知でしょうか。
それは大きく5つのプロセスに分解できます。
- ウイスキーグラスにロックアイスをたっぷり入れる。
- 30~40mlのウイスキーを注ぐ。ここで水を注いではいけない。
- 水を注ぐ前に、マドラーで13回転半かき混ぜる。
- ロックアイスを追加して、天然水をウイスキーの2~2.5倍注ぐ。
- 最後にマドラーで3回転半、軽く混ぜて完成。
なぜ、このような例を挙げたかと言うと、これが1つの成功する「型」だからです。
このやり方で作れば誰でも、「おいしいウイスキーの水割り」ができるようになるというわけです。
こうした「型」なしに「おいしいウイスキーの水割り」を作ってもらうとしたら、味の再現性は保証できませんし、作り手によってバラバラなものができるでしょう。
ただ、“名人”ならば、このような作り方を感覚的に知っているのかもしれません。
同様に、パン工場で「おいしいパン」を焼く場合について考えてみましょう。
下図のように、目標は「おいしいパン」、そのプロセスを分解すると[配合][こねる][発酵][焼く]と分けられます。
それぞれの工程を見直すことで、目標達成へと近づいていくことになります。
なお、この手法は「プロセスマネジメント」と呼ばれ、工業製品などの“カイゼン”には欠かせない手法です。
――そして営業も、この2つの例のように、トップ営業マンが行っている営業プロセス・業務プロセスを細部まで分解することで、「上手に売上を上げる方法」が再現可能になると考えられるのです。
「何事も小さな仕事に分けてしまえば、特に難しくない」とは、マクドナルド創業者のレイ・A・クロック氏の言葉。
トップ営業マンの行動も、プロセスごとに細部まで分解してしまえば、誰でも対応できる“小さな仕事”になるはずです。
分けると解かる!トップ営業マンの “売れる秘訣”
再現性のある営業――これが実現すれば、営業マネージャーにとっても、現場の営業マンにとっても有意義なことでしょう。
そのためにも、トップ営業マンが、無意識に行っている「仕事の進め方(プロセス)」を細部まで分解して、何をすべきなのかを見える化することが必要なのです。
例えば、「商談が上手なのだろう」と思っていたトップ営業マンが、実は細かに訪問先のリストを管理してランク付けを行っていたり、客先の情報を入念に下調べして仮説を持ってアプローチしていたり…というような、“地道であまり目にしていなかった部分”が見えるようになります。
このような、これまで見えない部分こそが、売上につながっている可能性もあります。
こうしたノウハウを、「型」とすることで、全営業マンが共有することができるようになります。
営業プロセスを分解すると、下図のようなイメージとなります。
先述したパン工場の例と似ていると思いますが、各プロセスで何をすべきか、1つひとつ明確にしていくことになります。
こうして、営業の「型」ができるわけです。
これを「マニュアル」と言い換えてもよいでしょう。
営業力を強化すべきポイントはこうして見つける!
このように、営業プロセスを分けることで「型」ができるとともに、それぞれのプロセスごとの結果が見える化できるようになりました。
その結果、営業マネージャーや営業マンにはどのような影響が現れるのでしょうか?
同じ企業の営業部門の営業マン、AさんとBさんの実績を比較してみましょう。
まず、下左図「プロセスを分解しない状態」をご覧ください。
AさんもBさんも引合数・受注数も同じ。2人はまったく同じ営業活動を行っているように見えます。
一方、下右図の「プロセスを分解した状態」では、AさんとBさんの違いは明白。
Aさんは、明らかに[初回面談]から[提案]で案件数が減っています。
Bさんは[見積]から[稟議]で案件数を落としています。
つまり、Aさんは初回面談の強化、Bさんは見積までのクロージングの見直し…が、それぞれの営業力強化のために必要だとわかります。
この例からは、プロセスを分解することで、Aさん・Bさんの強み・弱みが明確になり、適切に営業力強化ができるとともに、営業マネージャーは最適なマネジメントができるようになることがわかりました。
これが、営業を科学することの重要なポイントの1つです。
3章 マニュアル化が“型破り”な営業マンを育てる?
先入観を捨てよう!「型」があるから営業は飛躍できる
「営業はそんな単純なものではない。マニュアル型の営業なんて人間的な魅力がなくなってしまう。自社は他社とは違うから。」
…もしかすると、型やマニュアルに対し、このような思い込みを持っている方もいるかもしれません。
しかし、名刺交換、挨拶の仕方、上座と下座、敬語、服装…など、営業マンの多くはマナーという「型」を身につけています。
こうした「型」という基本があるからこそ、応用して、さらに良い印象が残るように創意工夫できるはずです。
それと同様に、「こうすればうまくいく可能性が飛躍的に高まる」という、「営業の型」を身につけるということなのです。
マニュアル化は、決して「金太郎飴」のような同じ顔をした営業マンを生むわけではありません。
「基本」を共有しながらも「型」を超えた創意工夫を生む、良い意味で“型破り”な営業マンを生み出すことにもつながるのです。
そしてもちろん、すべてマニュアル通りにすることを良しとしているわけではありません。
マニュアルを“金科玉条”とせず、創意工夫し、柔軟に改善・更新していけるものと考えるべきです。
ただしその際には、マニュアルには企業理念も明確に記載することも重要。
マニュアルは必ず、企業理念に合致した方向で成長させなければなりません。
例え売れるからといって、企業理念に反する方法で営業を行っていたら、損失につながるかもしれません。
「型」があるからこそ、飛躍できたある飲食店チェーンの例をご紹介します。
この飲食店では、接客プロセスを70に分解し、この70のプロセスそれぞれにお客様にどのように声をかけるべきか、マニュアル化していました。
小雨が降るある日の事。
屋外の駐車場に1人のお客様が入ってきましたが、あいにく傘は持っていないようで、店の入口に来るまでに濡れてしまいそうです。
その時、従業員の1人が、このお客様に傘を差し出して入口まで案内しました。
これは、マニュアル化されていたからしたことではなく、マニュアルに則り、なおかつ企業の基本理念にも合う行動と考えた従業員自ら行った行動だったのです。
つまり、これはマニュアルという基本があるからこそ、それを踏まえて創意工夫し、発展的なサービスにつなげることができたのです。
営業マンの場合でも、マニュアルを基本とすることでプラスαの発想がしやすくなり、応用的な展開につなげることができるはずです。
しかし、そのためには「練習」や「準備」も欠かせません。
先ほど、「分けると解かる」と述べましたが、「わかる」から「できる」「続ける」…という道のりをたどってこそ、売れる営業になるのです。
営業力強化のためにすべき「練習」と「準備」
ゴルフや野球、剣道などの経験者は「型=フォーム」の重要性をすでにご存知でしょう。
丹念に素振りを行い「型」の定着を促すからこそ、実戦で活かせるわけです。
一方、営業がすべき「練習」とはロールプレイング(ロープレ)です。
ロープレを実施することで、「わかる」から「できる」営業マンへと成長するのです。
この時、営業マンがすべき「練習」の内容についても、よく考えなければなりません。
一般的なロープレでは「数撃てば当たる」式のプッシュ型営業の台本が多いようです。
しかし現在、狙ったターゲットを高い確率で顧客にするには「モノを売る」営業では通用しません。
「お客様のニーズを満たす」ことを目的として、そのニーズを満たす手段として商品・サービスを購入してもらう…という営業が求められます。
これを「ソリューション営業」と呼びます。
今、営業マネージャーが目指すべきは、このソリューション営業ができる営業マンです。
ぜひ、そのためのロープレの台本を作り、練習を実施することをおすすめします。
ソリューション営業は、別コラムで詳細を解説していますのでここでは簡単な紹介に留めますが、大きく分けて次の5つのステップがあります。
- STEP 1 事前準備
- STEP 2 アプローチ
- STEP 3 ヒアリング
- STEP 4 プレゼンテーション
- STEP 5 クロージング
さらに、これを70のスキルに細分化することができますが、1つひとつ練習し、フィードバックを行うことが、営業マンのスキルアップにつながります。
また、この5ステップ70 スキルをマスターすることが重要な「事前準備」の1つにもなります。
「練習」を繰り返し実施することで、社内の営業マンの営業力は底上げされ、トップ営業マンのような営業力を持つ人が増えることでしょう。
こうした個人の営業力が育つ環境があるからこそ、組織の営業力強化にもつながっていくのです。
まとめ
- トップ営業マンの営業プロセスを分解すると“売れる秘訣”が明らかになる
- トップ営業マンの営業プロセスを「型」にして共有しよう
- マニュアルがあるからこそ、“型破り”な営業マンが生まれる
- 営業にも「練習」が必要、定期的にロールプレイングを実施しよう
- 練習するならば「ソリューション営業」のロールプレイングがおすすめ