ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?導入に必要な知識と実践に不可欠なおすすめツールについて解説
ABM(Account Based Marketing:アカウントベースドマーケティング)は、営業部門とマーケティング部門が連携し、ターゲットとする企業(アカウント)を絞り込んだ上で顧客獲得とLTVの向上を目指すBtoBのマーケティング手法です。
この記事ではABMの基本的な考え方とそのメリット、基本となる3つのアプローチを解説するとともに、組織にABMを実装するために不可欠なツールもご紹介します。
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ABM(アカウントベースマーケティング)とは?
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは、BtoBのビジネスにおける顧客獲得・売上拡大のための戦略的アプローチのことを指します。
広く集めた見込み顧客を選別しながら成約につなげていくリードベースドマーケティング(LBM)に対して、最初からターゲットとする企業(アカウント)を絞り込んでセールスとマーケティングのリソースを集中するのがABM(アカウントベースドマーケティング)です。
ABMでは、取引金額が大きく長期的な関係が期待できる見込み顧客を絞り込み、マーケティングと営業のリソースを集中させることで、ひとつの企業のLTVを最大化することを目指します。
リードベースとアカウントベースの違い
ABM(アカウントベースドマーケティング)とLBM(リードベースマーケティング)の違いとしては、次のような点が挙げられます。
ABM (アカウントベースマーケティング) | LBM (リードベースドマーケティング) | |
目的 | 営業・マーケティングのROI最大化 | ホットリードの創出 |
ターゲット | 購買意思決定者 | 反応のあった不特定多数 |
営業リスト | 質(取りこぼしが少ない) | 量(取りこぼしが多い) |
担当部門 | 営業部門とマーケティング部門 | マーケティング部門 |
スタイル | インバウンド、アウトバウンド | インバウンド |
リードタイム | 長い | 短い |
大口顧客や得意顧客を専門に担当するアカウントセールスやアカウントマネージャーを置き、特定の企業へのアプローチに集中する営業方法は、従来から行われてきたことです。
ABMの本質は、営業担当者のスキルとされてきた、営業先のキーパーソンの攻略や課題解決につながる具体的な提案の作り込みといったものを組織的な取り組みに落とし込むことにあるといえます。
MA(マーケティングオートメーション)、SFA(営業支援システム)、CRM(顧客関係管理)などのデータから得られるインサイトを積極的に活用することで、顧客獲得のROIを高めることが効果的です。
ABMが注目される背景
ABMのコンセプトが従来の法人営業と変わらないと述べましたが、ABMという呼び方で近年注目されている理由として以下の2点を挙げることができます。
BtoBマーケティングにおける購買プロセスのオンライン化
BtoCと同様に、BtoBの領域においても購買プロセスのオンライン化が進んでいます。
従来は営業担当者が顧客と直接対面して関係を構築し、提案から成約までをサポートしていました。しかし、インターネットやソーシャルメディアの普及により、顧客は自社で情報収集を行い、オンライン上で購買意思決定を行うケースが増えています。
オンライン上でのタッチポイントの増加は、リード獲得のための母数が増えたことを意味します。しかしその反面、インバウンドを中心としたデマンドジェネレーションの過程で獲得したリードは顔の見えない数字の集まりでしかなく、受注に結びつく可能性を読みにくいため、取りこぼしも多くなります。
デマンドジェネレーションのデメリットを解消するためのひとつの方法として登場したのがABMです。
ツールを活用したマーケティング技術の進歩
購買プロセスのオンライン化に並行する形で、MA/SFA/CRMといったツールのデータがマーケティングに活用されるようになってきました。これらのツールに蓄積されるデータを一元管理し、定量的な観点からアプローチ先とアプローチ方法を検討することが受注の精度を高めることにつながります。
営業担当者の属人的なスキルに依存していた法人営業にデータの裏付けを与えるのがABMのアプローチであるといえます。
ABMの4つの原則と3つの異なるアプローチ
2000年代初頭に米マーケティング・コンサルティング会社ITSMA社がABMを理論化して発表したことが、ABMのコンセプトが一般化するきっかけとなったといわれています。
ITMSA社の「Three types of account-based marketing」では、ABMの4つの原則と3つのアプローチが提唱されています。
[AMBの4つの原則]
- 顧客の課題解決に焦点を当て、顧客のビジネス目標の達成するための提案を行う
- 営業とマーケティングが平等なパートナーとして、ターゲットの定義、エンゲージメントのルール、ターゲットのリスト作成に取り組む
- ABMの目標を顧客のLTV向上とし、長期的な関係構築を目指す
- 営業とマーケティングはそれぞれのインサイトを総合し、顧客のためのパーソナライズされた提案により関心とエンゲージメントを引き出す
[3つの異なるアプローチ]
Strategic ABM | ABM Lite | Programmatic ABM | |
定義 | 個々のアカウント向けに高度にカスタマイズされたプログラムの作成と実行 | 類似の問題やニーズを持つアカウントのクラスタ向けに軽度にカスタマイズされたプログラムの作成と実行 | 特定の名前付きアカウント向けに、マーケティングキャンペーンを大規模にカスタマイズするためのテクノロジーの活用 |
マーケターとアカウントの比率 | ストラテジックABMアカウントに対しては、1対1(ただし、1人のマーケターが複数のアカウントを担当する場合もある) | 1対少数 | 1対多数 |
主な目標 | ・認識の変化 ・関係構築 ・機会の特定 | ・関係構築 ・機会の特定 | ・リードの生成 |
セールスとの共同作業の性質 | ストラテジックアカウントチームとの統合 | セールスリーダーシップとアカウントチームとの調整 | セールスリーダーシップとセールスオペレーションとの調整 |
資金の源泉 | ビジネスユニット、セールス、マーケティング | マーケティング | マーケティング |
マーケティングコンテンツ | 個別化、カスタマイズ、再利用 | カスタマイズと再利用 | 再利用 |
主要な戦術 | ・1対1のミーティング ・リーダーシップに対するアカウント固有の思考 ・イノベーションイベント ・エグゼクティブエンゲージメントプラン ・プライベートイベント | ・1対1のミーティング ・Eメールマーケティング ・エグゼクティブエンゲージメントプラン ・資料の個別作成 ・ドメインを特定したデジタル広告 | ・Eメールマーケティング ・1対1のミーティング ・ドメインを特定したデジタル広告 ・ダイレクトメール ・ブログ/ソーシャルエンゲージメント |
※ITSMA「Three types of account-based marketing」より引用・作成
ABMの3つのアプローチは、マーケティングのリソースの集中度合いにおいて異なります。顧客と1対1の関係で最も個別的なアプローチを取るのがStrategic ABMであり、Programmatic ABMはデマンドジェネレーションに近い形を取ります。両者の中間に位置するのがABM Liteということです。
ABMのメリット・デメリット
ABMは、MA/SFA/CRMを活用したデータ分析と、営業部門とマーケティング部門、場合によっては戦略部門も加えた連携が必要とされる取り組みです。
高度な情報処理と組織力によって大きなメリットが期待できる反面、デメリットも存在します。
メリット
ABMによりもたらされるメリットは次の3つが考えられます。
ROIの最大化・LTV向上
ABMの目的そのものが、LBMにおける失注を最小化し、大きな取引を見込める顧客にリソースを集中してLTVを最大化させようとするものです。
営業とマーケティングのリソースを集中することによってABMの目的を果たすことができれば、長期的な売上の拡大につながり投資に対するリターンを大きくすることができます。
マネジメントしやすい
LBMの場合は、さまざまなチャネルで発生したアクションを興味・関心のある見込み客と判断して、ニードナーチャリングのステップに移行していきます。
アクションの発生したタッチポイントによって顧客特性が異なるため、ホットリードに絞り込んでいく過程のマネジメントが煩雑になります。
それに対しABMは、営業とマーケティング、場合によってはトップマネジメントも合意の上でターゲットとアプローチを決定しPDCAを回していくため、マネジメントはシンプルです。
新たな機会の創出
ABMにより特定の顧客との関係が深くなることによって、その顧客のLTVが高まると同時に、顧客を介した新たな売上の機会、さらにいえば、新しいビジネスの機会を創出することにもつながっていきます。
ABMプラットフォームを手掛ける米Terminus社による「2020 ABMの現状レポート」によると、ABMの最も効果的な側面として「New business generation」(新規事業の創出)が挙げられています。
デメリット
ABMを導入・実践していくにあたり、課題やデメリットとして以下の点が想定されます。
組織力を要する
デマンドジェネレーションをベースとしたマーケティングを行っているとしても、従来型の法人営業を実施しているとしても、マーケティング部門と営業部門の高度な連携が求められるABMのワークフローに移行するためには変革が必要です。
ABMの成果にたどり着くまでの強力なリーダーシップと、部門をまたいで同じ目標に向かうことができる柔軟な組織力が求められます。
販売サイクルの長期化
LBMでは、デマンドジェネレーションの各段階でホットリードに絞り込まれていきます。一方、ABMでは、ターゲットアカウントの選定からアプローチ方法の検討、ターゲットの反応に応じた段階的な戦術の実行と、受注にたどり着くまでには期間を要します。
適切なツールの選択と分析スキルの必要性
ABMはCRMの顧客の基本情報に加え、SFAによる既存顧客の商談情報、MAによる顧客の行動履歴など各種ツールのデータを統合してターゲットとすべきアカウントを定義し、マーケティング部門と営業部門の役割分担を決めて施策の実行と効果検証を進めていきます。
その際に、自社のビジネス形態に沿った適切なツールを選択することに加えて、ツールに記録されるデータからインサイトを抽出できる分析力が求められます。
ABMを成果に結びつけるための条件
前述したITSMA社の3つのアプローチに示されているとおり、ビジネスの種類によってABMを組織に実装する方法は異なります。
ビジネスのタイプによって、ピンポイントにターゲティングすることが向かない場合もあり、以下の要素を考慮してABMが自社のビジネスに馴染むものかどうかを検討する必要があります。
ターゲットの企業規模と自社の売上構成
一般的に、企業業規模が大きければ、大きな取引金額と関連需要の取り込みが期待できます。一概に企業規模のみをセグメンテーションの条件とすることはできませんが、ターゲットとして大企業がABMに馴染みやすいといえます。
また、自社の売上構成が少数の企業によって成り立っている場合、新たな売上の柱を作るという意味でABMの戦略は適しており、反対に、不特定多数の顧客で成り立つビジネスにABMは向かないということになります。
組織構造の柔軟性
ABMには組織力が求められます。現状の営業組織がインバウンド、アウトバウンド、フィールドセールスなど、どのような組織構成になっているかを確認しまししょう。
また、マーケティング組織の現状の活動範囲などを前提として、ABMが想定するコンセプトを実現できる組織風土があるかどうかを再確認することが、ABMを導入するための鍵となります。
ツールの活用スキル
MA/SFA/CRMの各種ツールのデータを活用することでターゲットアカウントの理解と適切なメッセージの発信、個別のアプローチ結果の効果測定が可能になります。
顧客のセグメンテーションやエンゲージメント分析、リードスコアリング、過去の顧客データをもとにした予測分析などを行うためのツールの活用スキルとマーケティングの知識がABMの実践に不可欠です。
ABMチームのすべてのメンバーに分析スキルが必要なわけではありませんが、特にマーケティング部門はこれらのデータドリブンな活動をリードしていくスキルとリーダーシップが求められます。
ABM実装に不可欠なツール
ABMを組織に取り入れるためには、MA/SFA/CRMツールが不可欠です。ABMに向けた専用ツールとしてはTerminus、Demandbaseなどの海外の製品が知られていますが、これらの製品は日本向けのローカライズはされていないようです。
国内でABMに対応する代表的なツールとしては、以下の製品が挙げられます。
Marketo
Marketoは、Adobe社のMAツールです。ABMに関連する機能としては、ターゲティングとエンゲージメント、アトリビューション分析の3つが基本となります。
CRMツールとの同期やリードデータベースから抽出した顧客・リードリストを一元管理し、作成したターゲットリストからメール、SNS、Webなどを通じてパーソナライズされたキャンペーンを自動化することができます。
FORCAS
FORCASは、News Picksなどの情報サービスを展開するユーザベース社のABMツールです。
東京商工リサーチや野村総合研究所の企業データベースを使い、対象企業の業界情報や人物情報をリサーチして精度の高いターゲットリストを作成できます。
SalesforceやMarketo Engage、HubSpotなどのMAツールとの連携が可能であり、さまざまなビジネスにABMを取り入れることが可能です。
eセールスマネージャー
eセールスマネージャーは、フィールドセールスも含めた営業組織に対応できる多機能なCRM/SFAツールです。
既存顧客の分析から受注確率の高いリードの特定、営業担当者の活動情報をかけ合わせた分析など、デジタルとリアルの双方からのマーケティングを強力にサポートできるのが強みです。
ABMは営業とマーケティングの総力戦 最も重要なのはデータの使い方
ABMはデジタルマーケティングを前提としたBtoBマーケティングの考え方です。とはいえ、自社にとって最もメリットの大きい顧客をターゲットに選び、顧客のニーズに合わせてアプローチをカスタマイズしていくという点では、従来から行われてきた法人営業と何ら変わるところはありません。
BtoBの市場においてもデジタルが浸透し、データ活用の重要性が増したことが従来の法人営業とABMの違いであり、MA/SFA/CRMツールをどう活用していくか、また、データ分析を行うマーケティング部門と実際に顧客と接する営業部門の連携がABMを実践する上での鍵となります。
ABMを実践するにあたり不可欠なのがMA・SFA・CRMの各種ツールです。さらに、自社の営業スタイルやマーケティングの実施状況に合わせて適切なツールを選ぶことが最も重要なポイントです。
ABMに関連するCRM/SFA製品についての詳しい解説を以下の資料でご確認いただけます。