今さら聞けないBIツールとは?BIツールの基本と失敗事例に学ぶ導入のポイント
BI(business intelligence)ツールは、さまざまなデータを抽出・統合し、ユーザーごとの目的に沿った情報提供を行うための仕組みです。
経営の意思決定に役立てることもあれば、現場の営業担当者が、いまアプローチすべき顧客が誰なのかを探すような具体的なアクションにつなげる使い方がされることもあります。
さまざまな活用方法があるBIツールですが、導入の仕方や使い方を誤ると、思ったような効果を発揮できません。
今回は、BIツールの基本を解説するとともに、失敗事例を参考にBIツールを導入する際のポイントについて解説します。
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BI(ビジネスインテリジェンス)ツールとは?
BI(ビジネスインテリジェンス)とは、社内情報システムに蓄積されるデータや外部から入手したデータを合わせて、収集・加工・分析して得られるインサイトをビジネスの意思決定に活かす、データドリブンなアプローチのことを指します。
1980年代後半から使われるようになったBIは、当初、ERPシステムに蓄積されるデータの分析を主眼に置くものでした。しかし、大がかりなシステムの構築が必要であり高コストであったこと、専門性が高く扱える人材が限られていたこと、ハードウェアの性能が追いつかなかったことなどから、広く普及するまでにはいたりませんでした。
2010年代に入るとQLik、Tableau、PowerBIなど、個人のデスクトップ環境でさまざまな種類のデータを取り込み、GUI操作※によって分析結果を視覚的に表現することが可能なセルフサービスBIが登場し、BIツールの現在のメインストリームとして多くの関心を集めています。
※GUI(Graphical User Interface):テキストベースのコマンドを入力してコンピュータを操作するCUI(Character User Intaerface)に対して、アイコンやボタンなどのグラフィカルなパーツを操作する方法。CUIと比較して、直感的でユーザーフレンドリーな操作ができる。
BIツールの詳細については、こちらの記事も参考としてください。
参考:BI(ビジネスインテリジェンス)ツールとは?活用シーンやメリット、活用事例も解説
BIツールの機能
BIツールに求められる機能はレポーティング、ビジュアライズ、分析・予測に大別できます。
レポーティング
レポーティングは、実績データからKPIを抽出して可視化したり、リアルタイムで監視・報告する必要のあるデータなどを表示させる機能です。
これらのレポートは、ダッシュボードにまとめて常時表示することができるほか、同じ項目を一定期間のサイクルで出力する定形レポートにまとめるケースなどが想定されます。
また、特定の課題に対して必要なデータを収集して分析を行う場合など、アドホックなレポートを作成する際にもBIツールが役に立ちます。
ビジュアライズ
セルフサービスBIがデータの加工・分析に大きく貢献する要素として、グラフ化、チャート化によってデータの理解と解釈を促進し、効果的なコミュニケーションに役立つことが挙げられます。
セルフサービスBIには、データ加工・分析のための多様なメニューが搭載されており、対象とするデータの種類・範囲、分析手法の種類、表示形式などを柔軟に指定することができます。
データ加工・分析の自由度が高いことから、データ分析の知識とセンスに応じて、より深く、精度の高い分析が可能になります。
分析・予測
BIツールの最大の目的は、データを使った分析・予測から得たインサイトを意思決定に活かすことです。
多くのセルフサービスBIは大量のデータを多次元的に分析する、OLAP(オンライン分析処理)というソフトウェアを実装しています。OLAPではキューブというデータ構造を用いてさまざまな角度からの分析を高速に行うことを可能にします。
OLAPで提供される主要な分析オペレーションには次のようなものがあります。
ロールアップ | ロールアップはデータを要約するための機能です。月次で提供されているデータを年次にまとめるようなケースが当てはまります |
ドリルダウン | ドリルダウンはロールアップとは反対に、より詳細な階層レベルでデータを取得することです。年次データを四半期や日次といった形に分解して表示させるといった操作です |
スライス | スライスは特定の項目や範囲を指定してデータを取り出すことです。支店別の売上データから特定の支店、特定の期間を指定して表示させます |
ダイス | ダイスは複数の次元でデータを切り取る操作です。製品カテゴリーと地域という2つの次元でダイスすると、製品カテゴリーごとの地域別データを表示させることができます |
ピボット | ピボットは多次元データを1つの軸を基準として回転させ、データを異なる視点から表示させることを指します。商品カテゴリ別✕地域別のデータを地域別✕商品カテゴリ別に置き換えるケースなどが該当します |
他の分析手法としてデータマイニングが挙げられます。データマイニングとは、大量のデータから出現パターンや規則性、関連性などを抽出する手法です。また、過去のデータを用いて将来を予測するシミュレーションを行うこともBIの重要な機能のひとつです。
BIツールのメリット・デメリット
セルフサービスBIはユーザーの側からの積極的なデータ活用を支援するものであり、組織全体でのデータ活用の幅を広げることにつながるものです。
反面、社内システムに蓄積されるデータの扱いに対するリテラシーが求められるという点がBIツール導入のハードルとなります。
メリット
BIツールを導入することによるメリットには次のようなものがあります。
データドリブンな意思決定が可能になる
自社のビジネスに関連するさまざまなデータの把握と分析が容易になることで、経営やマーケティングにおける意思決定をデータドリブンなものに変えていく素地ができます。
経験や勘に頼らざるを得なかった判断を客観的な数値によって裏付けることが可能になり、豊富なデータの分析結果をわかりやすいグラフやチャートで示すことは、意思決定の際の合意を得やすくなる効果をもたらします。
意思決定の精緻化・迅速化
主要なKPIや業務に関連するデータを多くのメンバーで共有することは、それぞれの担当者レベルでの意思決定の精度を高めます。また、リアルタイムなレポーティングを得られることが迅速な対応を促すことにつながります。
データ活用の民主化による新たな可能性
セルフサービスBIは情報システム部門で使われることを前提とするものではなく、それぞれの担当者レベルでのデータ分析を可能にします。
限られた範囲でしか活用できなかったそれぞれの業務システムのデータを柔軟に取り込んで、多角的な分析を行えるようになることで、新たな課題発見や業務改善に結びつきます。
デメリット
BIツール導入におけるデメリットとして、以下の点が挙げられます。
技術的なスキルと導入コストの問題
既存の社内システムをデータソースとしてBIツールでの活用を図る場合には、ETL(データの抽出、変換、読み込みプロセス)のためのツールや、DWH(データウェアハウス:データを一元管理するデータベース)の実装などに関する技術的な専門性が求められます。
BIツールの活用形態として、オンプレミス(自社のデータサーバを用意する)環境とクラウド環境の2種類の場合が考えられますが、オンプレミスの場合はある程度の初期費用がかかります。
ラーニングコストを要する
BIツールのインターフェースはノーコードのGUI環境で利用できるものですが、データの取り扱いや分析方法については、それぞれのツールの操作方法を新たに学ばなければなりません。
オンボーディングの際は、ベンダーから提供されるトレーニングやチュートリアル、サポートの活用が欠かせないものとなります。
データ品質の確保
データの接続方法に問題がある場合や、ソースとするデータそのものに不備がある場合、BIツールの分析は意味をなさなくなります。
BIに取り込む業務システムのデータ品質を担保するためには、業務システムのデータの更新とデータクレンジング(データ不備の修正)に気を配ることが重要です。
BIツールの活用方法
BIツールはデータ活用の幅を広げ、意思決定や課題解決、目標管理などに活用できます。
組織階層ごと・業務部門ごとでの意思決定支援
BIツールを導入することで、アクセス可能なデータを統合し、柔軟かつ迅速にハンドリングできるようになります。
経営層にとっては社内システムに散在するデータを集約して分析することが、経営の意思決定スピートを速めることにつながります。また、現場レベルでのデータ活用が進むことは、課題発見や問題解決の糸口となります。
探索的な課題解決
直面する課題や発生した問題の解決を図る場合に、さまざまなデータを組み合わせて多様な分析を行うことができるBIツールが役立ちます。データ分析によって得られるインサイトが経験や勘に頼る思い込みを排除し、実効性のある課題解決にたどり着くための助けとなります。
パフォーマンスの測定と目標管理
BIツールを使って、部門や担当者レベルに求められるKPIや参照すべき業務データを共有することが、それぞれのパフォーマンスを意識し目標管理を行う上でプラスの効果をもたらします。
データの共有によって組織全体の目標意識が高まると同時に、部門横断的なデータ活用が組織効率の向上に貢献します。
BIシステムツール導入の失敗例
BIツールは一般的な業務系システムとは異なり、明確な目的や利用方法が決まっている仕組みではありません。
そのため、導入の仕方を誤ると、誰にも使われない仕組みとなってしまったり、一部のユーザーが使うだけのおもちゃとなってしまうリスクがあるシステムといえます。
ここではよくある失敗例をご紹介していきますので、BIツールを導入する際の参考としてみてください。
失敗例1:目的が明確でないまま導入してしまう
まず最初の失敗例は、BIツールの具体的な目的を定めないまま、「いまこそデータドリブン経営だ!」などと他社の成功事例をまねして失敗してしまうパターンです。
明確な目的がないので、そもそもどのようなデータを集めて、誰がどのように使うかもあいまいなため、とりあえず現場で使われている帳票をそのまま出力したり、見た目だけがきれいな経営ダッシュボードを作るといったことが行われます。
その結果、必要以上に大規模な導入を行い開発費がかさむ割に、使われないシステムになるという失敗となってしまうリスクをはらみます。
失敗例2:運用・改善まで考えずに導入
次の失敗例は、先々の運用や日々の改善を意識しなかったために、運用体制を整えずに作りっぱなしになってしまうパターンです。
導入当初は便利に使われていたとしても、業務や意思決定に必要なデータや集計方法は日々変わっていきます。
つまり、BIツールは一旦、作ったら終わりではなく、ユーザーが実際に使いつづけ、日々使える仕組みにしていくための改善をし続けることが大事な仕組みといえます。
導入後の運用や改善を意識せずに体制や予算を組んでしまうと、徐々に役に立たない仕組みに成り下がったり、必要なデータにアクセスするのに、多大な時間がかかってしまい、ユーザー側から「使えない仕組み」と判断されてしまうことにつながります。
失敗例3:アクションにつながらないレポートやダッシュボード
最後の失敗例は、レポートやダッシュボードが、具体的なアクションにつながらない仕組みになってしまうパターンです。
BIツールは、データ活用のための仕組みですが、単にデータを見るための仕組みではありません。データを活用するには、具体的なアクションにつなげる必要があります。
たとえば、営業組織の予算実績(予実)管理を行うためのレポートやダッシュボードがあったとしましょう。
予実管理は、単に予算が達成しそうかどうかを見るためのものではなく、本来は予算達成の見込みが薄くなってきたら、達成するための改善のアクションをすぐに起こせるようにするための仕組みであるべきです。
しかし、多くの役に立たないBIツールにおいては、単にデータが見た目上きれいな形で出るだけで、改善アクションが定められておらず、気づいた時には予算達成はどうやっても実現しようがない状態になっていた、という形になりがちです。
最適なBIシステムツールを導入するポイント
ここまで見てきたような失敗例を参考に、どのようなポイントを押さえておけば、データ活用に繋がるBIシステムを導入・運用できるのかをご紹介します。
ポイント1:そもそもBIツールが必要なのかを検討する
BIツールが本領を発揮するのは、複数のデータソースを組み合わせて分析するときです。
たとえば、SFA(営業支援システム)で発生する顧客情報や商談情報をなどを活用して営業業務の改善や効率化を図るような場合には、SFA単体のデータで十分なこともあります。
SFAに付属しているレポート機能やダッシュボード機能を活用するだけで、目的が果たせる可能性があるためです。
まずは、BIツールの導入目的を定めた上で、BIシステムが現状の組織に必要なのか、他の仕組みを活用することで代替できないかという視点を持って、導入を検討する必要があります。
参考:営業部門のDXにはMA、SFA、BIの各ツールが有効!業績アップにつながる活用法を解説
ポイント2:小さく始めて大きく育てる
データ活用をこれからはじめる組織にとっては、どんなデータがどのような形で提供できれば業務に活かせるかを誰もわかっていない状態からスタートする形となります。
そのため、まずはプロトタイプ的に費用や導入までのスケジュールをできるだけ抑えた小さなBIツールから始め、データ活用のイメージを組織内に浸透させながら仕組みを育てていく方法が有効です。
最終的には各ユーザーが活用できる状態が望ましいものの、特に最初の段階からデータ活用が組織内に定着するまでは、データ収集からレポーティングまでシステム面のサポート、業務での活用方法を相談できるような組織体制を組み立てる必要があります。
ポイント3:アクションにつながるデータ活用を意識する
データ分析は知的好奇心をくすぐる業務ですが、具体的なアクションにつながらなければ意味がありません。
たとえば、営業組織の予算達成のためのデータ活用であれば、
半期が終わった段階で目標達成率が40%を切っていた
↓
追加予算を組んで展示会に出展し、新規顧客獲得のためのアクションを起こす
といったように、数字や状況に合わせたアクションをあらかじめ定めておき、そのためのレポート作成や日々の確認を行うサイクルを決めておくことが重要です。
運用・活用を意識した仕組みづくりを行っていきましょう。
主要なBIツールの特徴
Tableau
現在はSalesforceの傘下となっているTableauは、セルフサービスBIやモダンBIといわれる現在主流となったBIツールの市場を牽引してきた製品です。
ビジュアライズの表現力に優れていることが特徴であり、グラフやマップ、ダッシュボードなどのビジュアル要素を組み合わせて多彩なデータ視覚化を実現できます。
デスクトップで使用するTableau Desktopをはじめとし、ELTのTableau Prep、クラウドベースのプラットフォームTableau Cloudなど数多くの製品群があり、導入規模とデータ共有の範囲に合わせて必要な製品を選択できます。
PowerBI
MicrosoftのBIツールで、Microsoft365との連携に強みがあります。Excelと似たインターフェースのわかりやすさがBIツール初心者に優しく、Excelファイルはもちろんのこと、Power Queryを使って120種類のデータソースに接続することができます。
無料アカウントで始めることができ、高度な分析と共有に対応するPowerBI Pro、エンタープライズに対応するPowerBI Premiumのプランがあります。
Looker
LookerはGoogleのBI製品であり、“第3世代のBIツール”といわれています。BigQueryなどのクラウドで提供されるDWHとLookMLというモデリング言語を使うことで、データの一貫性を保ち、データ分析の品質を担保する仕組みが整っています。
クラウドに接続されたオンラインで使用することが前提であり、ユーザーはすべての操作をブラウザ上で完結できることが特徴です。一方で、開発を行う場合にはLookMLのコーディングを習得する必要があり、エンジニアレベルの専門性が求められます。
BIシステムのポイントを押さえた導入で業績アップ!
BI(business intelligence)ツールは、業務を行う上で発生するさまざまなデータを抽出し、データを統合し、ユーザーごとの目的に沿った情報提供を行うための仕組みです。
組織内でデータ活用を推進するためには欠かせない便利な仕組みですが、明確な目的が決まっているシステムではないため、なんとなくで導入してしまうと、高い確率で「使われないシステム」になってしまうリスクがあります。
今回ご紹介した導入ポイントである、明確な目的を定めて、最初は小さく、体制を整えた上で使える仕組みに育てていくことを意識して、データの活用を組織内に浸透させてください。
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