【イチから解説】カスタマージャーニーとは?概念やマップの作り方・活用事例を紹介
IT技術の発達により、顧客の情報収集や購買活動の手段は多様化・複雑化しています。
そこで重要になるのが、顧客の購買までの意思決定を可視化し、最適なコミュニケーションを実施する「カスタマージャーニー」の概念です。
本記事では、カスタマージャーニーの基礎知識やメリットのほか、マップの基本構成や企業の活用事例を紹介しています。
業績アップにつながるマーケティング施策を模索している方はぜひ参考にしてください。
カスタマージャーニーとは
カスタマージャーニーとは、顧客が商品・サービスの購買に至るまでにたどる一連のプロセスのことです。
商品やブランドを認知し、実際に購入したのち、利用継続の意思決定をするまでの道筋を「旅」に例えて可視化することで、顧客体験向上に向けた施策の立案に役立ちます。
カスタマージャーニーは、カスタマーエクスペリエンス(商品・サービスと出会ってから購入、継続利用に至るまでの消費者体験すべて)の考え方のなかで生まれた比較的、古くからある概念です。
マーケティングの権威であるフィリップ・コトラー氏の著書「マーケティング4.0」で紹介されたことから、日本でも広く認知されるようになりました。
参考:CXを営業に活かすには? 戦略的に売上アップする方法や成功事例を解説
カスタマージャーニーが重要視される背景
インターネットが発達する以前、顧客の購買プロセスは非常にシンプルでした。
企業がマス広告で発信したメッセージを受け取った顧客は、企業やブランドに好感を持ち、店頭で商品を購入する。このようなわかりやすい購買行動だったため、マーケティング施策の基本型は決まっていたのです。
しかし、現代の顧客が入手できる情報は、企業側が発信したものだけではありません。比較サイトやレビュー、SNSなど、ほかの消費者が発信したものも含め、必要な情報を取捨選択して意思決定を行うことができます。
このように、顧客の情報入手経路が多様化・複雑化している世の中で選ばれ続ける企業となるためには、顧客の購買体験を適切にマネジメントしていくことが不可欠です。
ゆえに、顧客の行動を「意識」や「感情」も含めて可視化・整理できるカスタマージャーニーが重要視されています。
カスタマージャーニーはもう古い?
一方で、カスタマージャーニーは「時代遅れ」「現代にマッチしない」などと言われることがあります。はたしてこれは本当なのでしょうか。
インターネットの進化やスマートフォンの普及により、現代の消費者が得られる情報量は以前と比較にならないほど増加しています。
それゆえ、消費者は「購買」に向けたプロセスを一直線に進まず、さまざまな情報を行ったり来たりしながら意思決定を行うようになりました。
その結果、近年はパルス消費(スマホやウェブサイトをみているなかで突発的に購買意欲が発生し、商品を購入する消費行動)のような、予測されたプロセスから外れる行動をとるケースが多くみられることから、カスタマージャーニーが「もう古い」と言われるようになったのです。
参考:Think with Google「従来の購買行動はもう当てはまらない、情報探索行動を分析してわかったこと:バタフライ・サーキットと8つの動機」
このように、消費者の行動には時代とともに変化がみられます。しかし、マーケティング施策において顧客体験を向上させることの重要性は変わりません。
カスタマージャーニーの設計は、顧客の各購買フェーズにおける課題を発見し、解決につながる施策を検討するうえで現代においても十分有効な方法だといえるでしょう。
カスタマージャーニーのメリット
消費者の行動が変化している現代においても、カスタマージャーニーの重要性は変わりません。
ここではカスタマージャーニーの設計によって得られるメリットを3つ紹介します。
メンバーの認識を統一できる
カスタマージャーニーを検討していくなかでは、顧客と商品にかかわるさまざまなメンバーが「顧客体験の向上」という共通の目的を持って議論を重ねます。
結果として開発やマーケティング、営業など、部門や担当領域を超えて認識を統一できるようになり、ブランドや商品の方向性に一貫性が生まれます。
さらに、メンバー間の共通認識が醸成されることで、社内のコミュニケーションも円滑化するでしょう。業績アップに向けた施策の実行がよりスムーズになり、組織の推進力が高まります。
顧客の目線に立って施策を立案できる
カスタマージャーニーの作成には、顧客の行動や思考の理解・リサーチが不可欠です。
一連の顧客体験を時系列で可視化することにより、売り手の目線ではなく顧客視点でさまざまな気づきを得ることができます。
日ごろ気付かなかった商品の改善ポイントを見つけることができたり、購入に至るまでの顧客心理を理解できたりなど、マーケティング施策を顧客視点で実行するきっかけになるでしょう。
顧客自身も認識していない欲求(インサイト)を見抜くことができれば、市場をリードするヒット商品を生み出せる可能性が高まります。
参考:インサイトとは?顧客ニーズの分析方法やビジネス活用事例を紹介
顧客の購買フェーズごとにアプローチを整理できる
カスタマージャーニーを設計すると、顧客の購買フェーズごとに行動や感情を整理できます。そのため「どのフェーズの顧客に」「どのような施策を実行すればよいのか」を明確化したうえでアプローチが可能になります。
たとえば「検討フェーズの顧客に向けてSNSのハッシュタグ機能を活用する」のように、マーケティング施策を具体化できるため、施策の効果測定がしやすくなるのです。
施策が成功した場合はナレッジとして蓄積でき、うまくいかなかった場合でも課題を整理したうえで次なる施策を検討できるでしょう。
結果としてKPIの明確化にもつながるため、PDCAサイクルが活性化し、より効果的な施策を打ち出せる基盤が整います。
参考:PDCAとは?意味やサイクルを回すポイント、業務改善の具体例を解説
カスタマージャーニーマップの基本構成
ここでは、実際にカスタマージャーニーを設計する際の一例を見てみましょう。
顧客像を「部下のマネジメントに課題を抱えているベンチャー企業の営業部長」と設定してカスタマージャーニーをマップ化してみると、下図のようになります。
横軸には商品・サービスと出会ってから購入、リピートに至るまでの「フェーズ」を設定します。フェーズは、自社の状況にあわせて自由にカスタマイズ可能です。フレームワークを活用して定義するのも良いでしょう。
参考:【ビジネス図解】フレームワークとは?おすすめ本5選と目的別22選で解説
縦軸は自由に設定できますが、上図では代表的な「行動」「タッチポイント」「感情」「顧客体験」の4つの項目で整理しています。
ここでは上図をもとに、各フェーズの作成ポイントを解説します。
認知・興味
顧客は、自身の抱えている課題や困りごとに関してぼんやりと認識している状態です。
特定の商品・サービスを検討している状態ではないため、まずは顧客の課題を明確化し、解決に向けた知識を提供することから始めます。
アプローチ手段として、SEOやSNS投稿、Web広告などの施策が挙げられます。
情報収集
顧客が能動的に情報収集を開始する段階です。
自分事として具体的な商品・サービスを調べ始めるため、自社の商品・サービスが顧客の課題解決を促すことを示しましょう。
認知・興味フェーズと同様のチャネルでより詳細な情報を提供するほか、メルマガやセミナーなどの施策も有効です。
比較・検討
実際に購入したい商品・サービスをいくつか絞り込み、比較検討する段階です。
競合他社との差別化ポイントがわかる資料を提供したり、商談の機会を創出したりして自社のプロダクトを選んでもらうアプローチが必要になります。
顧客の不安要素をひとつずつ取り除き、商品・サービス導入後のプラスイメージを醸成することが大切です。
購入
自社の商品・サービスを購入してもらう段階です。
営業担当者による商談時は、購入後のサポート体制についても説明し、クーリングオフを防ぐことを心がけましょう。
Web上で購入が完了する商材の場合は、サイトの使いやすさ、わかりやすさが非常に重要になります。
継続・再購入
商品の買い替えやアップセル・クロスセル、サービスの継続など、既存顧客を囲い込む段階です。
カスタマーサクセスや営業担当者による継続的なコミュニケーションで、顧客の生活やビジネスをよりよくするための提案が不可欠になります。
参考:カスタマーサクセスとは何か?仕事内容やプロセス・成功事例を紹介
カスタマージャーニーマップの活用事例
実際の企業では、カスタマージャーニーマップをどのように活用しているのでしょうか。
ここではカスタマージャーニーマップを用いてビジネスを成功に導いた企業の事例を3社、紹介します。顧客体験を向上させるヒントとして、ぜひ参考にしてください。
三井住友銀行
三井住友銀行では、デザインチームが「カスタマージャーニーマップ・マネジメント(以下、CJMM)」を推進し、企業全体で一貫性を持った顧客体験を提供しています。
メガバンクのように事業数・部門数が多い企業は、プロジェクトの担当者がそれぞれ個々によいサービスを追求していくと、どうしても個別最適になりがちです。
そこでCJMMは、銀行のサービス全体を通した顧客体験の向上を目指すべく、カスタマージャーニーを階層に分けてマネジメントしています。
出典:SMBC DESIGN「デザインチームが推進するカスタマージャーニーマップ・マネジメント」
上図のように、抽象度の高い理想像から、徐々に具体度の高いカスタマージャーニーへ落とし込んで戦略を立案していることが大きな特徴だといえます。
部門やプロジェクトの数が多い企業において、担当者それぞれがきめ細やかなサービスを追求しつつも、全社的に方向性を統一することに成功した事例です。
ロフトワーク
出典:Web担当者Forum「2時間で作るカスタマージャーニーマップ――実例とともに考える新しい『おもてなし』のカタチ」
上図は、クライアント企業の新卒採用サイトリニューアルの方向性を決定づけるため、株式会社ロフトワークが作成したカスタマージャーニーマップです。
クライアントが新卒採用サイトで達成したい最大の目的は「新規事業を創出できる人材を獲得すること」。そのため、ジャーニーの範囲を「就活が始まってから入社が決まるまで」に設定し、大きく以下のステップで作成を進行しました。
- 顧客行動の収集
- 考えていること、感じていることの収集
- 課題のディスカッション
- 顧客行動と媒体の清書
- 課題の抽出
フェーズごとに「行動+媒体+感情・思考+課題」の全体を俯瞰することで、就活生が抱えている課題を正しく認識することに成功。サービスとして提供すべき価値が明確化し、Webサイトをより利便性の高いものへリニューアルできました。
カスタマージャーニーマップを作成した結果、本来の目的達成はもちろん、社員一人ひとりの意識にまで変化が見られ、より価値の高い顧客体験を提供できる基盤が整った事例です。
カスタマージャーニーで顧客体験の向上を実現しよう
企業の業績アップを実現させるうえでは、顧客の購買体験を向上させるカスタマージャーニーが重要な鍵となります。
まずはシンプルなカスタマージャーニーマップを作ることからスタートし、チームメンバーの認識を共有するメリットを実感してみてください。
さらに効果的なカスタマージャーニーを作るためには、顧客の思考や行動を丁寧に分析する作業が欠かせません。
顧客情報の収集・分析は、CRM/SFAをはじめとするITツールによって効率化できるため、工数削減や費用対効果の向上を図りたい場合はあわせて検討することをおすすめします。