【DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功事例12選】推進ポイントを業界別に解説
デジタル技術による変革であるDXに取り組む企業は年々、増えてはいるものの、日本においてはいまだ経済産業省が掲げる目標値に届いていないのが現状です。
DXに取り組まないと大きな経済損失にもなりかねないため、自社での推進を検討しているならDXの成功事例を参考にするとよいでしょう。
本記事では、業界別のDX成功事例や成功事例に共通するポイントなどを解説します。DX推進を加速させたいなら、ぜひ参考にしてください。
なぜDXの成功事例を知ることが大切なのか
DXは、導入しなければ大きな経済損失を被るリスクがあるほか、DXで得られるメリットが多いこともあって、その推進が推奨されています。
自社におけるDX推進を効率よく実行するには、成功事例に学ぶことも重要です。その理由を以下で解説します。
「2025年の崖」問題に直面している
経産省が2018年に発表した「DXレポート」によると、日本企業の約8割が老朽化したシステムを抱えています。
それらのレガシーシステムは、運用できる人材が限られ属人化しているほか、部署間での連携ができないなどの課題もあり、早急にこのシステムから脱却しないと、メンテナンスコストの増大が生じると同レポートで指摘されています。
これが「2025年の崖」問題であり、このままICT環境の整備や更新、データの活用が進まなければ、2025年以降1年あたり最大12兆円の経済損失が生じると警鐘が鳴らされています。
多くの日本企業はレガシーシステムを刷新するための予算不足や、経営陣のITリテラシーが乏しいためDXを有効活用する戦略を立てられないといった問題を抱えており、DXがなかなか進んでいないのが現状です。
独立行政法人情報処理推進機構が発表した「DX推進指標 自己診断結果分析レポート(2022年版)」によれば、経産省が掲げる「DX推進指標」の2022年全企業平均レベルが、目標3.16に対して1.19に留まり、前年よりも0.76低い過去最低の数値となりました。
日本企業におけるDX推進は依然、足踏み状態といえ、特に中小企業を中心に早急な取組が求められています。
参考:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?意味や定義、メリット・デメリットをわかりやすく解説
参考:DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を成功させるポイントや課題を解説
参考:DXはなぜ必要?アフターコロナ・WithコロナとDXへの取り組み方
DX推進で競争力を強化できる
DXを進めれば新規事業やビジネスモデルの開発につながり、競争力を強化できます。成功事例を見習えば、変化が激しい市場で生き残るための対応力も付くでしょう。
参考:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?意味や定義、メリット・デメリットをわかりやすく解説
参考:DXはなぜ必要?アフターコロナ・WithコロナとDXへの取り組み方
業務効率化により生産性向上を期待できる
DX導入で属人化した業務を自動化・標準化できるほか、業務の非効率を見直すきっかけになり、プロセス改善と効率化が可能となります。また、DXで業務が効率化するとリソースの最適化が可能となり、生産性向上も期待できるでしょう。
人材不足解消と働き方改革を実現できる
DXを進めて定型業務を自動化すると、人材不足を解消できます。また、業務環境がクラウドに構築されるため、テレワークや在宅勤務も実行しやすくなり、多様な働き方にも対応できるようになります。
結果、優秀な従業員の維持や定着も見込めるでしょう。
BCPを充実させられる
BCPとはBusiness Continuity Planの略で、テロや災害、システム障害などの発生時に損害を最小限に抑え、業務を途切れさせないための事業継続計画のことです。
DXによりクラウド上に機密情報や顧客情報などの企業情報を保管できれば、緊急時の事業継続体制を取りやすくなります。
【業界別】DX推進の成功事例12選
ここからは、社内でDXを推進することでさまざまな成果を挙げた事例を、業界・業種別に紹介します。
主に経済産業省と東京証券取引所、独立行政法人情報処理推進機構が共同で選定した上場企業の「DX銘柄2023」・「DX注目企業2023」に選ばれた企業や、経産省主導の中堅・中小企業等のDX優良事例選定「DXセレクション2023」からセレクトしていますので、参考にしてください。
参考:「DXプラチナ企業2023-2025」「DXグランプリ2023」「DX銘柄2023」選定企業取り組み紹介
参考:経済産業省|DXグランプリ「DXセレクション2023」選定企業レポートPDFファイル
【海運業】日本郵船株式会社:DXグランプリ2023受賞/DXを「Enabler」として中期経営計画を進めESG経営を実践
日本郵船株式会社では、海運業の国際競争力低下が課題となっている中で、中期経営計画実現のための戦略として「ABCDE-X」を掲げています。
「ABCDE-X」はAX・BX(中核事業の深化と新規事業の開拓を両輪とする基軸戦略)をCX(人材・組織変革・グループ経営変革)やDX、EX(エネルギートランスフォーメーション)によって支える戦略です。
特にDXは明確な課題解決の手段として、他の4つのトランスフォーメーションを実現するEnabler(何かを遂行するための手段)といった重要な役割を担わせています。
DXグランプリ受賞時の評価ポイントは、
- 船舶運航データレイク (NYK Ship Data Platform) を活用した安全で効率的な船舶運航の実現
- DXを実現する人材の育成と企業文化の涵養
などで、これらによりESGを中核に据えた経営戦略を実現しています。
【空運業】日本航空株式会社:DX銘柄2023選定/DXでお客さまに安全・安心な移動と新たな体験を提供
今回で5度目のDX銘柄選定となる日本航空株式会社は、顧客一人ひとりのニーズに応えられるシステム基盤を構築・運用しており、国内線の運賃体系の抜本的見直しや新たな乗継運賃の導入などの既存サービスを深化させたことが評価されました。
また2023年度中のドローンプロジェクトを着実に推進している点、安全運航を管理するオペレーションプラットフォームの確立という新しいビジネスモデルに挑戦している点も、DXを有効活用している好例といえるでしょう。
【建設業】清水建設株式会社:DX銘柄2023選定/ものづくり(匠)の心を持ったデジタルゼネコンを目指す
清水建設株式会社では、中期デジタル戦略「Shimzデジタルゼネコン2020」を策定し、「ものづくりをデジタルで」「デジタルな空間・サービスを提供」「ものづくりを支えるデジタル」の3つのコンセプトを柱としてDXの取り組みを推進しています。
DX銘柄2023に選定・評価された点は、以下の通りです。
- 既存事業・新規事業でバランスの取れたDX施策の実践
- 社内だけでなくアドバイザーやキャリア採用を行うなども含めた人財育成
- さまざまなメディアによる継続的な情報発信
参考:「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」に3年連続で選定
【製薬業】中外製薬株式会社:DXプラチナ企業2023-2025選定/デジタルの力で「世界最高水準の創薬実現」「先進的事業モデルの構築」を目指す
中外製薬株式会社では、ヘルスケア産業のトップイノベーター像の実現を目指して成長戦略「TOP|2030」を策定し、2つの柱となる「世界最高水準の創薬実現」と「先進的事業モデルの構築」を掲げています。
その実現のためにDX戦略の「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を融合させ、「デジタル基盤の強化」「すべてのバリューチェーン効率化」「デジタルを活用した革新的な新薬創出」といった基本戦略によって、自社ビジネスを変革しつつ社会を変えるヘルスケアソリューションを提供する取組を推進しています。
参考:「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2023」において「DXプラチナ企業2023-2025」に選定
【製薬業】第一三共株式会社:DX銘柄2023選定/データとデジタル技術を駆使してヘルスケア変革に貢献する
第一三共株式会社では、社内外のあらゆるデータを一元化して用途に応じてデータを加工、解析システムを用いてアウトプットを創出する仕組みとなる、統合データ分析基盤(IDAP)を社内に構築しています。
業務効率化のほか新たな発見や示唆を、創薬や情報提供活動に活かしています。
DX銘柄の選定では、以下が評価されました。
- 一人ひとりに寄り添った最適なサービスを提供する社会の実現に向けた「Healthcare as a Service(HaaS)」
- データ駆動型創薬と育薬
- データやデジタル技術を活用した安全監視活動
参考:「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2023」の選定 および当社DXの取り組みについて
【光学機器】株式会社トプコン:DXグランプリ2023受賞/医・食・住の3分野の社会的課題をDXソリューションで解決
眼科関連の医療機器や測量機器等に強みを持つ日本の光学機器メーカートプコンは、世界の人々が豊かな生活を営む上で欠かせない「医(ヘルスケア)・食(農業)・住(建設)」の3分野で社会的課題を解決するため、グローバルに幅広いDXソリューションを提供しています。
デジタル化、自動化、ネットワーク技術により、従来の作業プロセスに変革をもたらすDXソリューションを提供する事で、新規市場の創出を推進しています。
DXグランプリに選ばれた理由は、「単なるモノ売り、サービス売りではなく、ターゲット業界の課題に対して技術とサービスを複合させた解決策を提供している」などとなっています。
参考:4年連続 デジタルトランスフォーメーション銘柄に選定、グランプリに初選出!
【金融業】りそなホールディングス:DX銘柄2023選定/アプリ活用で会えないお客様との取引機会を拡大
りそなホールディングスでは、豊富な対面チャネルや多様な商品・サービスラインアップなどの強みを最大限活かして、DXによる「会えないお客さま」との取引機会拡大を目指し、「デジタル」と「リアル」の融合を進めています。
その先駆けとなる2018年にリリースしたアプリは、顧客目線のUI/UX改善に取り組んだ結果、最も利用度の高いチャネルとなっています。
また、機能を提供する側と利用者側をつなげるエコシステムである「金融デジタルプラットフォーム」を構築し、現状の顧客だけでなく、地域金融機関や一般事業法人、地方公共団体等やその先の顧客向けに提供しています。
具体的にはバンキングアプリの地域金融機関への展開、顔認証マルチチャネルプラットフォームの検討、非金融データの利活用検討、非対面決済や新規ビジネスなどで、これらを通じて従来の枠組みにとらわれない外部との幅広い共創を目指しています。
こうした取組が認められ、2020年以降DX銘柄選定企業の常連となっています。
参考:「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2023」の選定について
【食品メーカー】味の素株式会社:DX銘柄2023選定/「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する企業」への変革を加速
味の素グループでは「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」をパーパス(志)として、2030年までに10億人の健康寿命を延伸し、環境負荷を50%削減するというアウトカムを目標として掲げています。
パーパスを実現する取り組みとして、事業を通じた社会価値と経済価値の共創を図るASV(Ajinomoto Group Creating SharedValue)経営を進化させ、「志×熱×磨」を追求し、「スピードアップ×スケールアップ」を図る手段としてDXを推進しています。
DX銘柄2023で評価されたのは、以下のようなポイントです。
- 社外のエコシステムや社会の変革に向けた大胆な計画を立て、着実に成果を上げている
- 自社独自のDXの定義とロードマップを敷き、食品業界の中でも優れた取り組みを行っている
- 業態変革への道筋とDXのロードマップが整合し、企業価値貢献・実現能力ともに取り組みが包括的かつ具体的である
- テクノロジーの活用で直接のタッチポイントを作り、情報発信を通じて生活者の課題を解決しようとしている
参考:味の素(株)、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2023」に選定
【食品機器】株式会社フジワラテクノアート:DXセレクション2023グランプリ受賞/DXにより醸造高低業務の効率化と、人材・スキル向上を実現
醤油・味噌・日本酒・焼酎等の醸造食品を製造する機械・プラントメーカーの株式会社フジワラテクノアートは、「醸造を原点に、世界で『微生物インダストリー』を共創する企業」として、「微生物のチカラを高度に利用するものづくり」をさまざまなパートナーと共創し、心豊かな循環型社会に貢献することを目標にDXを推進しています。
基幹システムの刷新等の取組で全工程が進化し、情報セキュリティ強化、人材・スキル向上等を実現した結果、
- 業務プロセスと進捗の可視化による効率的な製造
- 工数・事務作業・ミスの削減
- メンテナンス用部品の納期短縮
- 紙の使用量削減
- デジタル人材の育成
等、いくつもの成果をあげました。
【情報・通信業】ソフトバンク株式会社:DX銘柄2023選定/DX推進により社会課題の解決や新規事業の創出を続ける
ソフトバンク株式会社は、「デジタル化社会の発展に不可欠な次世代社会インフラを提供」するという目標のもと、産業全体のDX推進を図り、社会課題の解決や新規事業の創出に注力したことがDX銘柄の選定につながりました。
評価されたのは以下のポイントです。
- 社内の生産性を向上させた「デジタルワーカー4000プロジェクト」
- 新規事業の創出で日本のDXを推進
- 「5G」の展開でデジタルの社会実装を加速
参考:3年連続! ソフトバンクが「DX銘柄2023」に選定されました
【卸売・小売業】トラスコ中山株式会社:DXプラチナ企業2023-2025選定/DXでプロツールの供給体制を整え、最高の利便性を追求
プロツールと呼ばれる工場用副資材を「必要なときに、必要なモノを、必要なだけ」届けるビジネスを展開・追求するトラスコ中山は、デジタル技術を巧みに活用して、サービスの質や生産性の飛躍的な向上を実現しています。
以下のような取り組みの先進性などが評価され、DXプラチナ企業2023-2025への選定につながりました。
- 基幹システムの刷新を行い、自社だけでなくサプライチェーン全体の課題解決に取組み、高度ではないが着実なDX推進を行っている点
- 置き薬ならぬ置き工具「MROストッカー」の導入件数が年々、増加傾向であり、これまでの取り組みが拡充できている点
- 多様なキャリア選択ができる人事制度で施策が強化されている点
【卸売・小売業】株式会社セブン&アイ・ホールディングス:DX注目企業/DXでお客様に適切な商品やサービスを常に創造・提供
株式会社セブン&アイ・ホールディングスでは、お客様の価値観や行動の変容に合わせた商品やサービスを常に創造・提供するために、企業の成長戦略の一貫としてDXを推進しています。
同社はDX銘柄受賞の常連であり、2023年は以下のような点で注目企業として評価されています。
- グループ共通のデータ分析・利活用をするための7iDプラットフォームを構築
- サプライチェーンプラットフォーム(エコシステム)の構築により、過剰生産による食品ロス、庫内在庫水準の適正化、トラック配送の効率化によるCO2排出削減の取り組み
参考:DX銘柄2023
DX成功事例の共通点
DXで成功している企業は、データをフル活用しており、専門の推進体制を構築して取り組んでいます。詳しく解説します。
データをフル活用している
DX推進に成功している事例の共通点としては、データをフル活用しており、データドリブンであることが挙げられます。多くの企業が、顧客や自社製品に関するデータを蓄積し、業務の効率化やニーズの把握に活かしています。
DXを成功させてるポイントは、データを取得して蓄積するだけではなく、それを適切に活用することで、新たなサービスの提供や付加価値の向上につなげている点といえるでしょう。
DXを専門に推進する体制を構築している
DX推進に成功した企業は、システムを導入するだけでなく、DXを推進できる人材の育成やDXを動かす仕組みなど、体制構築に投資をしています。専門の推進部隊を構築することで、スムーズに進められることでしょう。
また、DXを効率よく進めるには、CRM/SFAツールや外部サービスの活用も有効です。自社に人材などのリソースが不足している場合は、これらの活用も検討しましょう。
参考:業務効率化の定番ツール15選! 目的別に特徴や料金プランも含めて紹介
DXを成功させるなら、CRM/SFAツールやシステムを有効活用しよう
自社のDXを推進するなら、同様の業界・業種の成功事例を参考にすることで、自社の課題ややるべきことが明確になるでしょう。また、CRM/SFAツールや外部サービスを活用すると、DXを効率よく進められます。
DX推進を検討しているなら、成功事例の成功ポイントを見習いながらツールやシステムを活用して、加速化させましょう。