【金融業界向け】DXの現状と課題とは?企業の取り組み事例まで解説
日本経済の基盤であり、経済をけん引する立場にある金融業界にもDX化の波が押し寄せています。しかし、業界全体としてはまだDX効果を最大限に活用できていない状況と言うべきでしょう。
本記事では金融企業向けに、DXの現状と今後の課題について解説します。間近に迫る「2025年の崖」を、現実のものとしてイメージしてみましょう。
DX化が進まないとお悩みの場合は、まず自社の状況をチェックしてみてください。下記の資料を参考にしながら自社の状況をチェックすると、何が不足しているかを把握できます。
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そもそもDXとはなに?
まずはDX(デジタル・トランスフォーメーション)が何かを確認しておきましょう
DX=デジタル・トランスフォーメーション
「DX」という言葉は、「ITテクノロジーで世の中を変える」という意味合いでスウェーデンのウメオ大学教授であるエリック・ストルターマン氏が提唱した言葉です。
IT技術が私たちの生活を変えたことは、多くの人が実感しているでしょう。
DXは、このIT技術の活用をさらに進め「便利なIT技術で世の中のありようを変えるレベル」のイノベーションを起こすことを指しています。
DXについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
参考:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?意味や定義、メリット・デメリットをわかりやすく解説
DXが求められる背景と日本経済を襲う危機
DXは社会経済全体に影響を及ぼします。
日本にはかつて、自動車、電機、電子、半導体業界などの分野で世界を大きくリードし、栄華を誇っていた時代がありました。
その後、日本を必死で追いかけてきた韓国にシェアを大きく奪われ、さらには中国が圧倒的な成長力で追い越して行きました。
他国に追い抜かれてしまった現在、日本は産業構造の改革の必要に迫られていますが、はたして日本は、その課題に対応できているのでしょうか?
IT時代の到来から20年ほど経ちますが、世界をリードするGAFAのような新たな企業は国内から現れていません。このまま他国との差がひらけば、日本経済は停滞してしまうでしょう。
日本経済全体のDXにおける課題と対応
新たな産業やビジネスで世界を先導できていない現状が、日本のここ数十年の課題です。
DX化の停滞はその状況に追い打ちをかけ、さらに深刻なダメージを与えるおそれがあるとさまざまな公的文書やコラムで専門家によって指摘されています。その理由は何なのか、次の章で解説します。
DXの必要性|2025年の崖
DXに関する取り組みをする上で2025年の崖の問題が大きな注目を浴びています。経済産業省が言及している内容を確認しておきましょう。
「2025年の崖」問題
「2025年の崖」問題とは「2025年に、日本企業は従来のITシステムの更新に関連して大きなトラブルをかかえるおそれがある」ということです。具体的には、以下のような懸念点をいいます。
IT技術者の枯渇
まず、IT技術者が圧倒的に不足してきます。経済産業省の試算では、2025年に40万人程度のIT技術者不足が発生すると指摘しています。日本の少子高齢化社会において、IT技術者が増えないという深刻な事態に陥ってしまっている状況です。
既存ITシステムの老朽化
技術者数の絶対的な枯渇に加えて、旧システムに対応できるIT人材のさらなる減少が見込まれています。
旧システムとは、「オンプレミスの情報システム」や「企業専用情報システム」と呼ばれるような、自社専用に設置されたITシステムのことを指します。
大きなコンピューターやサーバーを自前で準備して、カスタマイズされたものです。
「誰が見てもわかるプログラム」を前提に作られていないので、基本は、開発を担った当時のシステム開発会社と自社の情報システム部門がメンテナンスを行っています。
しかし、2025年には、そうした技術者の中で年齢的に引退を迎える方が増加します。それにより、当時のプログラミング言語を習得していない人材の方が多勢を占めると言われているのです。
また、既存システムを担うIT製品全般がサポート期限を迎え、メンテナンス部品の販売も停止するおそれが出てきます。
部品の調達がまったくできなくなる、という恐ろしいことが起こるかもしれません。そこまでの損害を受けなくても、メンテナンス部品は品薄により高騰する可能性が高いでしょう。
「2025年の崖」が引き起こす事態は?
「2025年の崖」ではこうしたことから、以下のような事態が予測されています。
- 既存システムが停止する
- メンテナンスコストが上昇する
- 蓄積したデータを新システムへ移行できない
- メンテナンスや監視が疎かになる
- サイバーセキュリティが脆弱になる
結果として、
- ビッグデータの活用ができずDXの波に遅れてしまう
- 自社業務システムの維持が困難になる
つまり、保守にIT人材を割かなければならず、最先端デジタル技術開発に人材を回す余裕がないといった不利益が生じる可能性があります。
2025年の崖までもう1年を切っています。本腰を上げて対策を取ることが、今後の企業運営を左右することになるでしょう。
自社の状況にも当てはまると感じた方は、DX推進の課題を解決して取り組みましょう。以下の資料をダウンロードすれば、自社の状況を客観的に確認できるようになり、DX推進できるようになります。
金融業界がDXを推進できない理由
金融業界がDXを推進できない理由は4つあります。
伝統と継承による足かせ
ここまで見てきたように、金融業界は歴史ある企業が多く、その積み重ねてきた実績が伝統となり慣習となっています。
その歴史に対して、「何かを変えること」「何かを止めること」は困難であると言われています。「歴史と伝統」が良くも悪くも影響を及ぼしているのです。
金融業界全体の風土
金融業界はお金や証券保険などを取り扱う商売であり、取引相手の資産をあずかり、管理していく過程で利益を得ています。
そのため、昔から金融ビジネスは「信用」を得ることが最重要であり、失敗はあってはならない、という前提で進みます。
新しい取り組みをする過程で何かのミスが出てしまうことは容認されず、「ミスなく取引を完了する」ということの方が、金融事業会社にとって重要となります。
そのため、変革の推進が良しとはされない風土がある、と言われています。
セキュリティを最優先するが故のガラパゴス化
金融商品や顧客の資産を安全に預るという最重要課題があった故に、金融機関の情報システム(ITシステム)はオンプレミスで、一部の関与する担当者とシステム業者にのみアクセスが許される、閉じられたシステムでした。
「2025年の崖」問題に関連しますが、金融各社が望んで行った閉じられた情報システムの構築が、今となって次世代のDXシステム構築の大きな足かせとなっています。
日本経済を支える巨大企業ゆえの悩み
金融各社が超大企業であるという事実も、ITインフラの大規模な変革や改修をするのに、莫大な予算を計上しなければならないという悩みにつながります。これも、金融各社がDX投資に二の足を踏む要因のひとつと言われています。
金融業界のDX化に必要不可欠な施策
金融業界がDX化推進に取り組むためには何が必要なのでしょうか? ここでは、金融業界に必要不可欠な施策をご紹介します。
デジタル人材を確保する
2025年の崖問題で解説したように、ITスキルを持つ人材の不足が、ここ数年で急速に進みます。その人材は、大きく2つに分けられます。
- DXに対応するためのIT人材
- 既存システムのメンテナンス・改造などに対応できる人材
まず、発展的・能動的な「DXへの対応を実現させる」ためのIT人材の確保、人材育成が間違いなく必要です。それが出来なければ、次世代のビジネスに対応できなくなるおそれがあります。
また、既存の情報システムを延命させながら、新システムへの移行手続きを進めていかなければなりません。これまで取得してきた企業の無形資産であるデータを無駄にしないためにも、この対策は欠かせません。
柔軟な対応ができるクラウドシステムへ切り替える
現在、各企業がサーバーを置いて自社専用の情報システムを構築するオンプレミスシステムから、クラウドシステムを使った自社サーバーを持たないシステムへの移行が急速に進んでいます。
日本銀行機構局のアンケート調査結果では、金融機関の約9割が何らかの形でクラウドを利用しています。2025年の崖を考慮するならば、クラウドへ切り替えることが必須と言えるでしょう。
引用:日本銀行金融機構局 金融機関におけるクラウドサービスの利用状況と利用上の課題についてーアンケート調査結果からー
業界全体での規制緩和/DX対応を検討する
金融機関は国民の生活インフラ的な役割を果たす立場にあります。改革によるメリットよりも、仕組みを変えないことで安全や維持を担保する事が優先されるのは、業界体質として致し方ない部分もあります。
しかし、それによってDXへの対応が遅れないよう、業界全体が足並みを揃えて変化に対応すべき時期に来ていることもまた事実でしょう。
変化に対するアレルギーを克服し、実行するには、契約書やハンコ、対面契約のような「旧来からの手段」の変更を必要とします。DXに取り組みデータをうまく活用していけば、以下のようなことも可能です。
- 顧客の属性、取引履歴を活用して融資審査を自動化
- 業界・企業の動向分析をAIで分析
- オンライン完結型など新しい金融サービスの提供
- データ分析して顧客のニーズを掴み、成約率を向上
- AI-OCRで書類のデータ入力などの業務効率化
現在のセキュリティ対策は大きく進化してきているので、現時点でどこまで可能になったのか、早急にITベンダーから支援を受けてみましょう。
金融DXに取り組んでいる企業事例
さわやか信用金庫様は、東京都心部を基盤に活動している金融機関です。同社は2003年度から攻めの経営を行っています。
お客様により便利なサービスを提案するためにはデータ活用が欠かせないと考え、クラウド型のCRM/SFAを導入。CRM/SFAに案件交渉プロセスを蓄積し、全員で共有することに決めた結果、他部署との連携がスムーズに行えるようになりました。
お客様にサービスを喜んでもらえた成功事例、また失敗事例などを共有して、業務を見直していくことで新規顧客の獲得に成功しています。また、外出先から顧客情報が入力できるようになり生産性を上げることに成功しました。
このように、クラウドサービスを使用すれば金融DXも十分に実現可能です。
参考:eセールスマネージャー CRM/SFA導入事例 さわやか信用金庫 様
金融業界が動かなければ日本全体を変えられない
日本では、DXに関して「2025年前後に寿命を迎える企業の保有する既存情報システムの更新ができず、情報を業務に活かせない」という問題が指摘されています。
その理由は、ITスキルを持った人材の大幅な不足が起こると予測されているためです。
日本の根幹を支える金融業界がDX化に失敗した場合、日本経済に与える影響はきわめて大きいものになると予想されます。日本経済の維持・繁栄のためにも金融業界全体がDX化に向けた意思疎通を図り、団結してこの問題に対応すべき時に来ているといえるでしょう。