業務の属人化を解消するには(1)〜属人化で発生したボトルネックを確認
一つの企業に勤め上げるのが普通であった時代では、業務における属人化は自分の居場所を守るため必然のことでした。しかし、終身雇用制度が事実上、崩壊して転職が一般的になったいま、業務の属人化は企業にとって深刻な問題であり、これを解消することが必須です。
今回は営業業務の属人化が生まれる理由、属人化のメリット・デメリット、属人化解消の対策の最初のステップである、属人化で生まれたボトルネックの確認までを解説します。
業務の属人化とは
業務の属人化とは、特定の人物に業務の知識やノウハウが依存している状態のことを指し、標準化の対義語となる言葉です。企画から案件クロージングまでのすべてを一人の担当者で対応するなど、業務が一人に集中した状態が属人化の典型例といえます。
営業業務の属人化では、
- 業務の進め方
- 顧客情報
- 担当する案件の進捗状況
- 社内の関係部署や外部協力会社との連携方法
といった情報が、上長を含む他のメンバーに共有されていないパターンが考えられます。
こうした状況では、担当者の不在や退職によって業務全体がストップし、収益状況に悪影響を及ぼすだけでなく、対外的にもネガティブイメージをもたらすことが少なくありません。
属人化と似て非なる用語として、「スペシャリスト」があります。
スペシャリストは、特定業務や分野に突出した専門知識やスキルを有する人物のことです。専門性の高い組織を構築するためや業績を向上させるために、みずからの持つ専門的なノウハウを他のメンバーに共有することもミッションとして担う点で、属人化とはあきらかに異なります。
属人化の原因
業務の属人化はどうして生まれるのでしょうか。その原因を確認しましょう。
業務の専門性が高い
業務の専門性の高さが、属人化を生み出す原因になります。担当者と同レベルの専門的なスキルを有し、業務経験が十分にある人材を社内で探すのが難しい場合、業務の分散化がかないません。
外部から新たに人材を採用すれば解決できるとしても、これにはコストがかかるので、すぐに対処することができない事情もあるでしょう。結果として、業務をこなせる担当者一人に依存する状態が続き、業務が属人化していきます。
業務を共有する仕組み、時間がない
担当者が常時多忙のため、業務マニュアルを作成したり、業務ノウハウや業務プロセスの共有をする時間が作れないことも属人化の原因となります。
少人数の組織の場合には、人手不足から業務を共有できる相手が存在していないために、属人化せざるを得ない場合もあります。
担当者の保身
社内における自分の地位や立場を守るために、担当者が意図的に情報共有せず、業務を抱えてしまうことも属人化の原因です。
自分の仕事に対して上長や同僚などから指摘をされたくない、という意識が強い場合にも、属人化を招きやすいといえます。
使用しているシステムが古い
社内で使用しているレガシーシステムが原因で、業務が属人化することもあります。
年季の入ったレガシーシステムは、必要に応じて作り込み部分が増え、システムが複雑化していることがほとんどです。しかも、マニュアル(ドキュメント)が不十分で、操作方法が特定人物の頭の中にしか存在していないことも多々あり、運用業務ができる人が限定されてしまいます。
テレワークでのサイロ化
会社に出社していれば上長、同僚との情報共有をしながら、業務を進めることが通常です。しかし、テレワークが続くと、自分で判断をして業務を進める割合が増え、コミュニケーション不足に陥りがちです。
しかも、その状況に慣れてしまうと、メンバーとの情報共有を自発的にしなくなることもあり得ます。このような業務のサイロ化も、属人化を加速させる原因となるのです。
属人化のメリット、デメリット
業務の属人化には、どのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。
メリット
マイナスイメージの強い属人化ですが、以下にに挙げるようにメリットもあります。
高度・抽象的な業務に耐えうる
戦略面などの抽象的な業務では、業務プロセスをテンプレート化することが困難です。その場合は専門性および経験の観点から、属人的な対応をする必要があります。
個人のスキルセットを見定めることができる
属人化は、担当者一人に業務が任された状態です。同じ業務を続けているうちに、業務にかかわるスキルの向上や、担当者独自のやり方による業務効率化につながる面もあります。
結果として、担当者のモチベーション向上につながるでしょう。
デメリット
属人化にもメリットがありますが、組織成長の観点では、デメリットの方が圧倒的に多くあります。
業務効率の低下
担当者だけが業務プロセスを知り、進捗状況がわかる状態なので、上長も含む他メンバーには、業務のことがほとんどわかりません。サポートの方法もわからないことがほとんどです。
もし、担当者が長時間労働に疲弊すれば、業務効率は大きく低下します。担当者が病気や事故で長期不在となれば、部署の誰にも代理が務まらず、業務がストップすることもありえます。
業務品質や成果の低下
業務の品質が不安定になりやすいことも、属人化のデメリットです。担当者が多忙であればあるほど、ミスが増えて業務の品質が低下し、受注率の差異が発生することもあります。
さらに、担当者しか業務を把握していないために、担当者がミスをしても発見するのが致命的に遅れてしまう状況にも陥りかねません。
ノウハウが組織に蓄積できない
組織に業務ノウハウが蓄積されない点も、属人化のデメリットです。属人化している業務プロセスをそのまま放置すれば、業務ノウハウの共有は不可能です。
その状態で担当者が退職してしまった場合、業務が完全にストップして、リカバリ不可能になることがあります。
進捗管理が困難
業務プロセスがブラックボックス化しているため、上長は担当者が何をどのくらいやっているのか、工程を管理することができません。
担当者が連日、長時間労働していたとしても、能力不足ゆえに時間がかかるのか、それとも仕事量が多すぎるからかの判断ができないため、担当者に対する正しい評価が難しくなります。
属人化を解消するための業務プロセスの見える化5つのステップ
属人化を解消するためには、業務プロセスを見える化することが必要です。以下の5つのステップで進めていきましょう。
Step1:業務洗い出し
業務を行う上で発生する作業や、関係部署(人物)、外部の協力会社(人物)とのやりとりが必要になるドキュメント類などを、担当者との会話を通してすべて洗い出し、標準化すべき業務プロセスを見きわめます。
Step2:フローチャート化
Step1の結果を踏まえて業務を整理した段階での、業務プロセスの全体像(フローチャート)を作成します。
Step3:属人的事項、担当ごとの差異抽出
Step2で作成したフローチャートを使って担当者、その上長、連携する他部署の担当など、業務プロセスの各担当者それぞれにヒアリングを実施し、各自の考える業務プロセスとフローチャートの差異を明確化します。
人によって違う捉え方をしている場合が多々あるため、複数の人に聞くのが肝心です。ヒアリングの結果を受けて、フローチャートを修正します。
フローチャートが完成したら、担当者を含む関係者全員によるレビューを行った上で、業務プロセスのあるべき姿を確定します。このタイミングで業務の分散化に向け、ハイスペックな担当者が担うべき業務や、ロースペックな担当者にもできる業務も洗い出すのがよいでしょう。
なお、Step3でヒアリングを担当するのは経営企画担当者など、その業務に対して客観的な立ち位置の、第三者となる人物が適任でしょう。
Step4:ボトルネック部分の明確化・優先順位づけ
関係者にヒアリングした結果、あきらかになった差異から、業務における複数のボトルネックを明確化できます。
それらを整理して、インパクトの強い内容のボトルネックから解決できるように、優先順位をつけましょう。
Step5:対策の実施へ
ボトルネック解決の優先順位づけが完了したら、次は具体的なアクション方針を定めます。
業務の定量的なフロー化やツール活用での自動化など、それぞれのボトルネックに合致した方法を定めて、ボトルネックの解決と業務の標準化に向けてすみやかに進めましょう。
属人化解消にはボトルネックの策定・標準化のポイントの突き止めを
業務の属人化を解消し、スピード感があって効率的かつ高品質な業務を行うことが、企業にとって必須といえます。今回は業務のボトルネックを明確にし、業務の標準化をめざすことが、属人化を解消させる早道であることを解説しました。
第2回では、属人化を解消し、業務の標準化に進むための施策や、ITツールの活用によって属人化解消のスピードアップをはかる方法をご紹介します。