リテンションとは?マーケティング・営業・人事に有効なポイントと事例を紹介
現代のビジネスでは、顧客や従業員との関係性が重要視されています。増収増益を継続し企業の発展につなげるためには、よい顧客体験と従業員の帰属意識向上が欠かせません。
それを実現するための有効な手法の一つに「リテンション」が挙げられます。既存顧客や従業員との関係性を保つ取り組みは、優良顧客や優秀な従業員を貴社につなぎ止め、業績の向上に寄与することでしょう。
この記事では事業運営にメリットをもたらすリテンションについて、目的やメリット、導入するポイントを解説します。
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リテンションの意味と目的
ビジネスにおいて「リテンション」は、業績を伸ばす重要なキーワードです。リテンションとはなにか、どのような目的で使われているかという点について、確認していきましょう。
リテンションの意味
リテンションとは、「維持」や「保持」の意味を持つ言葉です。マーケティングや営業、人事分野で、以下のように使われています。
分野 | よく用いられる用語 |
マーケティング | 既存顧客との関係を維持するための活動である「リテンションマーケティング」 |
営業 | 顧客との関係を維持しつつ、さらなる売上アップや良好な関係性の構築を目指す「リテンションセールス」 |
人事 | 人材の維持および確保を行う施策「リテンションマネジメント」 |
リテンションはどの分野で使われるかにより、意味が異なることを意識しておきましょう。
リテンションの目的
ビジネスにおいてリテンションが使われる目的は、大きく3つに分かれます。いずれも、関係性の維持を目標とすることが特徴です。それぞれの目的について、詳しく解説していきましょう。
顧客との良好な関係性の構築
既存顧客と良好な関係性を構築することは、持続的な成長や売上を確保するうえで不可欠です。リテンションマーケティングは、以下の2つを目的として用いられる手法です。
- 顧客の状況に合った提案を行う
- 売上が見込める顧客へリソースを集中的に投入する
- 過去の顧客にアプローチして、購入や利用を促す
上記の取り組みにより顧客との良好な関係性を構築し、顧客満足度を向上させながら売上アップの実現を目指します。
優秀な人材の確保
少子高齢化による生産年齢人口の減少や転職しやすい社会の到来により、優秀な人材の確保はどの企業でも大きな課題となっています。一方で、働く人はより快適で、みずからの実力を発揮できる職場を選びがちです。
優秀な人材の離職は、企業にとってリスクです。人材の流出を防止するためには、働きやすく魅力的な企業であり続けなければなりません。
リテンションマネジメントは、この課題を解決する目的で使われます。企業への定着率やエンゲージメントを高められることは、大きな魅力です。
社会から選ばれ、厳しい競争に勝ち抜く企業になる
リテンションの施策を進めることで、顧客も従業員も大切にする企業に近づけます。従業員の離職率も下がり、顧客による評価も高まるでしょう。
自社の評判が良くなれば、より優秀な従業員や自社に好意的な顧客を集める効果も期待できます。社会から選ばれ、厳しい競争に勝ち抜く企業に成長できるでしょう。
優秀な人材と良質なナレッジ、よい顧客を確保することで、競合より優位に立てることもリテンションの目的に挙げられます。
リテンションを行うメリット
リテンションの活用は、自社にさまざまなメリットをもたらします。マーケティング、ルートセールス(営業、リテンションセールス)、人事それぞれの業務にどのようなメリットをもたらすか、詳しく確認していきましょう。
マーケティングにおけるメリット
リテンションマーケティングは既存顧客を維持しながら、売上もアップできる方法です。顧客にマッチしたマーケティング戦略を打つことで顧客ロイヤルティを高め、少ないリソースでも効果をあげることが可能です。
マーケティングの分野でしばしば使われる言葉に「1:5の法則」があります。「新規顧客の獲得には既存顧客の維持の5倍のコストを要する」という法則で、既存顧客の重要性を示しています。
既存顧客と良好な関係があれば安定した売上が見込めるだけでなく、アップセルやクロスセルによる売上アップも期待できます。顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)」を最大化でき、業績アップを実現できるでしょう。
リテンションマーケティングにより、企業側も顧客もメリットを得られる施策を打つことが可能です。
ルートセールスにおけるメリット
あらかじめ決められたルートで顧客を回る「ルートセールス」は、安定している代わりに大きな業績アップが見込めない、と思うかもしれません。しかし、リテンションの考え方を取り入れた「リテンションセールス」に変えることで、以下のメリットが得られます。
- より上位のプランに変更する「アップセル」
- 関連する製品やサービスを契約する「クロスセル」
- 解約する代わりに下位のプランを契約することで、売上の減少を最小限に抑える
顧客をしっかりリサーチし、課題を把握して、適切な製品やサービスを提案しましょう。受け身の営業スタイルから能動的な提案型営業に変えることで、業績のアップを実現できます。
人事戦略におけるメリット
人事戦略においても、リテンションマネジメントは役立ちます。主なメリットを、以下に挙げました。
- 従業員のモチベーションを向上させ、生産性のアップにつなげる
- 従業員の帰属意識を向上させる
- 社内にスキルやノウハウが蓄積する。社外に流出しにくくなるため、競争にも有利となる
- 優秀な人材を採用しやすく、離職しにくい職場になる
- 従業員が入れ替わる頻度が下がるため、教育コストも下げられる
- 長期的な事業計画を立てやすい
事業を安定させ企業を成長させるために、リテンションマネジメントは欠かせない方法となっています。
マーケティングにリテンションを導入するポイント
マーケティングにリテンションを導入する際には、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 目的を定め、収集するデータの項目や量を決める
- 顧客を複数のセグメントに分類し、それぞれについて適切な対応を決める
- 収集したデータはCRMを活用して、適切かつ効率的に分析する
- 顧客の声に対して真摯に耳を傾ける
詳細は以下の記事で解説していますので、あわせてご確認ください。
参考:リテンションマーケティングの重要性とToDoに落とすまでの具体策
またCRMについては、以下の記事で詳しく解説しています。
参考:CRM(顧客管理システム)のおすすめ10選!選び方や運用のポイントも解説
ルートセールスをリテンションセールスに変えて売上の拡大が可能
ルートセールスをリテンションセールスに変えることで、変化し続ける時代でも売上の拡大を実現できます。リテンションセールスは、決まったルートで訪問し顧客からの要望を聞く「御用聞き営業」ではありません。以下のとおり、より能動的・戦略的で顧客に寄り添った対応が求められる手法です。
- 顧客を分析し、ニーズを知る
- 顧客の要望を待たずに、顧客に役立つ提案を行う
- 顧客に優先順位をつけて対応する
たとえば、サービスをより多く活用して課題を解決したい、商談の最中である、導入後間もないといった顧客は、密に情報交換して対策を取ることが必要です。一方で、現状維持を望む顧客は、最低限のやり取りにとどめるなどの対応が考えられます。
リテンションセールスにより顧客の状況に合った対応を行い、相互の信頼を高めることが可能です。これによりロイヤルカスタマーの育成と、売上の拡大を実現できます。リテンションセールスについては、以下の資料もご確認ください。
人事戦略で有効なリテンション施策を紹介
人事戦略でもリテンションを導入し、貴重な人材を事業の発展につなげる施策はあります。代表的な7つの施策を、以下に挙げました。
- 従業員のチャレンジをバックアップし、希望するキャリアパスを提供する
- 資格の取得や能力の向上など、スキルアップに関するインセンティブを用意する
- 成果や組織への貢献に応じて公正に評価を行い、適切な給与や賞与を与える
- キャリア別・階層別の研修で、よりよい仕事の進め方を共有する
- 結婚、出産、介護など、ライフステージが変化しても安心して働ける制度を設け、活用を推進する
- 働き方の自由度を高める(リモートワーク、在宅勤務、フレックスタイムなど)
- 組織を越えて気軽にコミュニケーションを取れる場を設ける
上記に挙げた項目は従業員の立場になって、真摯に検討し、実現することが重要です。より多くの項目を実現した企業は、従業員のエンゲージメントを高めることができるでしょう。離職率の低下や勤続年数のアップ、ノウハウの蓄積などのよい結果をもたらします。
企業のリテンション施策の成功事例
最後にリテンションを導入している企業の成功事例について紹介します。
株式会社星野リゾート
全国各地でホテル・リゾート等の企画・開発・運営を行う株式会社星野リゾートでは、既存顧客(リピーター)について詳細なデータ分析を行い、随時施策の検討を行っています。
一例としては、リピーターのお客様から「部屋のCDを増やしてほしい」との要望があり、そういった個別の対応についても検討しています。
「こういった取り組みが星野リゾート内のシェアを高めてくれるのであれば、それこそが安定集客を可能にする仕組みとなる」と、星野佳路代表はインタビューの中で述べています。
株式会社鳥貴族
都市圏を中心に居酒屋チェーンを運営する株式会社鳥貴族では、外食産業の高い離職率にフォーカスしてリテンションを導入しています。
具体的な施策としては、人材育成を配属店舗だけに任せるのではなく、人事部もサポートする体制の構築のほか、入社1ヶ月以内を目処に、面接官が配属部署を訪問して、新入社員をチェックしています。そうすることで、明確な責任の所在や従業員のモチベーションアップに結びついています。
また、社員ランクを17段階に分け、小さな成長でもランクがアップすることによる社員の意識改革や、本社で働く従業員を1つの部屋で仕事をするスタイルに変えました。業務への理解度の醸成やコミュニケーションがスムーズに行えるなどの相乗効果が現れています。
その結果、リテンション施策の目的であった離職率の低下を実現することに成功しています。
リテンションを活用して自社の発展につながる施策を導入しよう
リテンションは既存顧客との良好な関係づくりや売上のアップ、顧客満足度の向上、優秀な人材の定着率アップなど、企業活動に大きなメリットを与えます。
新規顧客の獲得が難しい時代、既存顧客や従業員は貴重です。リテンションを事業運営に活用することは、競合他社に勝ち成長を続ける近道です。
まずは顧客や従業員が何を望むか、真摯に向き合い分析することから始めるとよいでしょう。そのうえで自社の発展につながる施策を用意し、実現に向けて動くことをおすすめします。